福井県勝山市
ふるさと元気博物館・勝山市エコミュージアム推進計画

 福井県勝山市では、市民と行政が協働して地域の自然・歴史・産業資源を再発見し、市民生活や観光誘客での活用を目指す「勝山市エコミュージアム推進計画」によるまちづくりを進めている。地域再生計画においては、道整備交付金による市道および林道の整備、汚水処理施設整備交付金による集落排水および公共下水道の整備事業が位置付けられている。一連の事業を通して、白山平泉寺などの観光施設へのアクセス及び生活環境の改善、自然環境の保全を行い、林業をはじめとした地域産業の活性化や観光・交流の促進を図り、勝山市エコミュージアムの推進を目指すこととしている。

1. 地域再生計画策定について

(1) 地域再生計画事業内容

 A3001 道整備交付金 市道、林道の整備
 A3002 汚水処理施設整備交付金 
公共下水道、農業集落排水施設、浄化槽の整備

(2) 計画策定のプロセス

 勝山市は庁内でグループ制をとっており、グループリーダー会議において、地域再生計画への申請が合意された。

 旧地域再生プログラムがはじまった時から、市のPRを主目的として地域再生計画に申請することを考えていた。そのため、企画部門が主体となり、旧プログラムの支援内容に合致する、市の既存施策をとりまとめていた。たとえ市に具体的なメリットがなくても、市のPRになればよい、との考えである。また、内閣府からも、地域再生推進室のHPに記載されるなどPRにもなるので、是非申請してほしい、との誘いもあった。

   本年度の地域再生法の施行により、交付金のプログラムができたので、それに既存の事業を乗せることにした経緯がある。

 補助金の多くが交付金へ移行することについては、前年12月ころから各事業課レベルで県から情報を受け取っていた。特に林道整備については県との共同事業となるが、県においても補助金から交付金へ移行するスタンスが示されており、勝山市においても、補助金から交付金へ移行することは折り込み済みであった。

 勝山市は、第1回の申請、いわゆる「一号認定」であったため、市長が小泉総理から直接認定証を受領し、結果として市のPRにもなった。市からも各メディアに広報し、取材してもらったこともあり、PR効果は大きかったと考えている。

 特区についても、庁内で職員からアイディア提案を募集したことがあった。結果としては、1件の提案を提出したが全国的な規制緩和により実現可能となり、特区計画の申請は行っていない。

(3) エコミュージアム推進計画とのかかわり

 平成12年に現市長が就任したことを契機として、「勝山市エコミュージアム推進計画」の検討が開始され、平成14年11月に策定された。市内のさまざまな地域資源「遺産」を発掘し、保存活用することにより、市内全域を「ふるさと元気博物館」とすることを目指したもので、「エコミュージアム」という状態が目指す将来像である。

 直前に策定された市総合計画「第4次勝山市総合計画(計画期間:平成13年〜平成22年)」では、他の自治体と同様に部局別、分野別に事業が位置付けられた総花的な計画となっており、バラバラでありわかりにくい。一連の事業をひとつにまとめるコンセプトが「エコミュージアム」であると考えおり、総合計画を推進するための「具体的な手法」として位置付けている。

(4) 計画の評価

 現状では、計画ははじまったばかりであり、効果の評価をする状況にはない。

 エコミュージアム推進計画の推進組織として、市内各地区のNPO、ボランティア組織、行政の代表が参画している「エコミュージアム協議会」が平成15年からスタートしている。地域再生計画の推進状況の評価についても、この協議会で行ってもらうことを考えている。

 協議会は、年に2〜3回の会合を持っており、推進計画の進み具合などもこの席で報告されている。現状では、他の自治体でもよく見られるような「まちづくり協議会」のような協議機関と変わらず、未だ行政主導であり、市側が会合での討議テーマを決めているのが現実である。

 計画の進捗状況についても評価も、この協議会で検討してもらうことを考えている。ただし、地域再生計画に記載された交付金事業の個々の評価を行うのではなく、エコミュージアム推進計画全体の進捗状況の評価および今後の推進方針などについての検討である。

 

2. 地域再生計画の実施について

(1) 申請手続きについて

 計画申請の手続き自体は、普通であると思う。特に困難な点があるとも感じなかった。こちらとしては、すでにあるエコミュージアム推進計画に、既存の補助事業を位置付けているだけなので、申請書類はすぐに作成できた。ただ、第1回の申請であり、地域再生法が施行されたばかりの時期だったことから、たしか3月頃だったと思うが、申請マニュアルが3月になってからがらりと変わり、様式がほとんど変更された、といったこともあり、申請には1か月くらいはかかった。

 他地域の事例については、地域再生本部のHPに記載された他の計画を見せてもらった、という程度である。こちらは、すでに計画の内容ができており、特に他事例を参考とする必要はなかった。

 計画策定に際しては、市の企画部門と県の企画、内閣府が窓口になるが、計画申請の前に、既に事業課レベル、企画レベルそれぞれに県、市、国の担当者同士が調整を行っている。したがって、企画サイドとしても記載される事業についてはある程度のことは知っていなくてはならず、結局はこちらから各事業課の担当者に問い合わせをすることになる。

 勝山市では、公共下水道や集落排水など下水関係は1つの課にしているが、その課の中に集落排水や公共下水道の担当者がいる。県ではそうした区分はなく、今でも農林部門や建設部門に分かれているので、それぞれの担当者レベルでのやりとりが行われる。

 基本的にはこうしたやりとりを経て、補助メニューにおいて、事業課レベルで採択されたものだけが、交付金のメニューに出てくることになり、結局窓口が一つ増えただけ、というのが正直なところである。

(2) 地域再生計画のメリット・デメリット

 計画通りに進捗できなかった事業予算について、繰り越しの手続きが不要になることなどはよかったと思う。同様に類似の他事業へ振り替えができるようになっこともありがたい。ただし、計画変更の可能な範囲が小さいように思う。変えようとすれば、やはり計画変更の手続きをしないといけない。

 市道の担当者からは、従来の補助メニューではできないようなこともできるなど、融通がきくようになったと聞いている。これまでのように幅員が7mないと補助が適用されない、ということがなくなり、地域再生の目的に沿っていれば使えるようになるなど要件が緩和されているそうだ。

 下水道、林道については従前の補助事業と変わらない。窓口が多くなり、その分手間がかかるようになった。

 予算執行が年度間で融通が利くようになった、ということについても、実際には市では単年度で予算を組んでしまうわけで、現実には困難である。また、各年度の事業への補助率が今年と去年では違うのでは、議会や市民には説明がしにくく、「今年は30%だったのに、どうして来年は32%なのか?」といったことになりかねない。制度としては柔軟なのだが、結果としては市民には理解にしにくくなっているとも感じる。

 計画の実施については、現状では特に支障はない。市では、5年間の事業として既に予算が組んであるし、県や国でも予算枠はとってあるはずだ。ただし、5年分の予算が担保されたわけでないので、5年計画が確実になったというわけではない。

 新たな支援メニューの希望はあるか、との問いに答えることは難しい。現状の20近いメニューについても、勝山市のような小さな市ではほとんど使いこなせないのが現実である。正直に言うと、やはり一般財源でないとだめかな、とも思っている。

3. その他

 エコミュージアム推進計画の主たる事業は、地域資源(これを「遺産」と呼んでいる)の掘り起こしである。

 初年度からの3ヵ年(平成14年〜平成16年)では、旧町村10地区のまちづくり協議会などが受け皿となって補助金を拠出し、各地区の遺産の掘り起こしと活用に取り組んでもらった。この取り組みの中から、北谷地区のなれ寿司づくり、野向地区の炭焼きなど、現在まで活動が続き、コミュニティビジネス的な動きが出ているところもある。

 例えば、北谷地区は、市の北部石川県境に位置する高齢化、過疎化が進む地区で、メンバーは70代が中心だが、自己資金で加工場をつくる話も出ている。また、炭焼きでは、製品を市内のイベントで販売したりする、といった動きが見られている。

 平成17年度からは、団体の提案企画を審査して補助金をつける試みを始めている。各地区や市内の各団体などが申請した企画案を、協議会メンバーが公開審査して、その場で採否を決める。3月になれば、各団体の事業成果がまとまるだろう。この試みも3年間実施する予定であるが、初年度ということもあり、現在は試行的な位置付けである

 現在は、すべて行政から仕掛けたいわば「官製」の動きであるが、将来的には各団体相互の連携により自立的に動くようになればと考えている。これがエコミュージアム推進計画の到達目標であるとも考えている。今後は、恐竜の化石発掘など、市の特徴的な資源を生かしていきたいと考えている。