北海道 足寄町
廃校を利用した木質ペレット生産工場の建設と
新エネルギーシステムの導入

 北海道足寄町では、木材産業の活性化、地球温暖化に対応した安定した新エネルギー利活用の観点から、地元の森林資源(カラマツなど)を活用した固形燃料である木質ペレットを開発、普及を図ることとした。町では、「地域再生」制度の認定を受け、同町芽登地区にあった廃校(旧足寄西中学校)の体育館を生産工場として転用することにより、建設コストの削減を図り、校舎についても展示施設、研究施設として活用し、資源リサイクルに関する情報発信拠点とすることを目指すこととなった。地域再生の認定により、木質ペレットの有効活用による省エネ推進、地球温暖化防止の意義が関係諸官庁に周知されることとなり、林野庁、北海道などの支援制度の活用や専門家のアドバイスも受けることが可能となり、事業は円滑に進展している。
1. 地域再生計画策定について

(1) 地域再生計画事業内容

 足寄町は北海道東部に位置し、人口は8,500人(平成17年3月末)、面積は全国市町村中第3位の1,408 kuで、その84%が森林となっている。このため、林業は町の基幹産業のひとつとなっていたが、木材価格低迷や後継者難等から衰退の一途が続き、森林の荒廃が懸念されていた。

 このため、町では、この豊富な森林資源を生かすとともに、地球温暖化対策、省エネ対策を推進するために、地場木材を活用した木質ペレット燃料の活用を計画した。ただし、工場を新設し、機器等の投資を行うと採算性が厳しくなることから、国道241号に隣接し、道東の拠点都市である帯広市や北見市へのアクセスも容易で、古くから国有林・民有林伐採原木などの収集場所として利用されていた芽登地区に着目し、同地区にあった廃校(旧足寄西中学校)を工場として利用することとなった。しかし、中学校校舎を工場として活用するためには、補助金で整備された公立学校の廃校校舎等の転用が必要となり、地域再生計画の認定を受けることにより対応することとなった。

 同校の体育館(544平方メートル)を一部改修し、おが粉製造機やペレットミル(造粒機)などの製造プラントを設置、鉄筋コンクリート3階建ての校舎は、旧職員室を製造管理事務所に、教室をペレット関連の展示室、ストーブの研究開発室として利用し、グラウンドは原材料の集材場所としている。

 町では、2006年完成予定の役場新庁舎などで大型ペレットボイラーを導入し、需要拡大を支援する計画である。ペレット工場は稼動後3カ年で年間1,000トン、5カ年までに1,400トンの生産量を実現する計画で、単に生産拠点とするのみでなく、産業観光の拠点としての活用、周辺の農業観光資源との連携などによる波及効果も期待している。

*木質ペレット;おがくずなどの製材廃材や林地残材といった木質系の副産物・廃棄物を粉砕、圧縮し、成型した固形燃料。木材の成分であるリグニンを熱で融解し、固着させることで成型するため、接合剤などの添加が必要ない。燃焼時に有害物質の発生が少なく、備蓄・取り扱いが容易である。

(2) 計画策定のプロセス

 この数年間、足寄町の主導(町の企画担当部署にいた岩原主幹のリーダーシップ)により、森林資源の保全、林業の再活性化等の観点から、木質ペレットを活用したバイオマスエネルギーの活用について、検討が進められてきた。

 まず、平成13年には、NEDO(独立法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助事業を活用した「新エネルギービジョン」と林野庁の補助事業を活用した「足寄町木質バイオマス資源活用ビジョン」を策定した。翌年6月には町にある九州大学農学部付属演習林長の指導の下に、町、民間事業者、足寄町森林組合によって「足寄町木質ペレット研究会」が発足した。研究会では、北海道(「森林バイオマスモデル事業」の適用)と町の補助金により取得した小型ペレット製造機(国産品で価格400万円)とペレットストーブを活用して、町の特産資源であるカラマツを活用したペレットの試作と燃焼実験を行い、ペレットの有効性を確認した。

 平成15年には、同じくNEDOの事業を活用した「バイオマス等未活用エネルギー実証試験事業」を実施、これまでの研究会を母体とした異業種による「とかちペレット協同組合」(造林、設備、建設、燃料などの商店を含めた町外も含む14社が参画)を設立し、ここを母体に生産・販売が行われることが決定した。これに対して、町では、新庁舎に大型ペレットボイラーを導入するなど公共施設でのペレット活用や住民のペレットストーブ購入に助成措置を設け、市場の確保が想定できるようになったため、本格的な工場建設を行うこととなった。

 ただし、工場建設費の負担軽減のために、廃校となった足寄西中学校の活用を図ることとし、施設転用のための「地域再生」制度の活用に関する情報を支庁から入手、内閣府に問い合わせたところ、事前協議を持ちかけられ、計画策定に至った。

 まずはイメージ図を作成し、内閣府(12〜13名参加)と事前協議開始、国内で2番目の案件ということもあり、同府から計画づくりの指導も十分受けられた。

 本事業の推進により、ペレットストーブを活用する住宅や施設の設計・建設の需要も期待され、建設業の新規事業にもつながる可能性もある。

 町では、住民向けシンポジウムを開催し、木質ペレットの活用について町民の理解を促している。さらに、林野庁でも木質ペレットの啓発パンフレットを作成するなど、木質ペレットの活用について幅広いPRを行ってきている。

 
工場となっている体育館(左) と  体育館内のペレット生産設備(右)

2. 地域再生計画実施について

(1) 進捗度(評価)

 平成17年11月に完成した工場で、年間700トンのペレット生産が開始されている。現在の市場はペレットの輸送費が高いために、十勝支庁内に留まっているが、今後域外へも拡大したい意向にある。また、ペレットストーブの開発も地域内で実施し、域内での木質ペレットの生産から消費までの一貫したシステムの開発を行えるような仕組みを考えている。このため、林産試験場の研究と連携を図りたい意向にある。さらに、既に多くの視察者が来訪しており、産業観光の拠点ともなりつつある。

(2) 効果(メリット・デメリット)

 地域再生計画の認定自体は補助金獲得など直接のメリットはないものの、地域再生認定と同時に内閣府から多様な助成制度の情報を得ることができ、生産までスムーズに進行した。申請後も多様な情報提供をもらっており、事業運営の参考になっている。

 こうした結果、活用による新エネルギーとして木質ペレットが多くの官庁等で認識されるようになった。例えば、当初林野庁は木質ペレットについての認識が希薄であったが、地域再生制度の認定等により、「木質バイオマス支援事業」を創設することとなった。

 町議会も地域再生の認定を受けたことにより、木質ペレットの庁舎暖房への活用に前向きになった(当初は慎重な意見があったものの、徐々に方向が変わってきた)。これを受けて、町ではペレットボイラーを8千万円で購入、年間300トンのペレットを利用することを確約し、先述のような住民へのPRを行うなど、事業支援体制を確立している。
道でも、地域政策補助金でペレット製造設備購入の支援を行ったほか、2005年6月には、道民のペレットストーブ活用に対する助成制度を新設するなどの支援を行っている。

 昨今の灯油価格の上昇により、木質ペレットの割高感が解消されている。環境にも良好のことも認識され、想定以上に需要が拡大している。また、灯油と比較して、遠赤外線効果により燃料効率もよく、灯油との競争力が備わっている。一方、最近では多様なメーカーが、木質ペレットを活用できるストーブの開発を進めており、ストーブの価格も低下しつつある。

 今後については、オガを活用した砂絵を教育用素材として活用、エネルギーに関する教育と合わせた学校教育のテーマとし、さらに校舎を地域交流の場と位置付け、森林保全など地域文化創造の場ともしたい意向にある。また、後述のような産業観光の拠点としても位置付ける考えもある。

(3) 地域特有の資源の活用

 ペレット原料は、足寄町を中心とする木材の未利用資源である。間伐材や台風による流木の活用も考慮すると、現在の需要見通しを踏まえれば、原材料は地域周辺で十分な量を調達できる状況にある。

 観光との連携も見込まれ、工場周辺で行われている放牧酪農、体験型農業、チーズ工場、レストランをセットにした産業観光、牛糞のバイオマスプラントや氷による野菜保存などの新エネ事業も産業観光も期待できる。

 昨年度は、事業開始直後にもかかわらず、施設への視察者が200人近くあり、50代までの幅広い世代を対象にしたモニターツアー(周辺の資源を含めたツアー)も実施している。2007年度には、春夏秋冬それぞれの売り物を組み合わせた団塊世代を対象としたツアーも計画している。



ペレットストーブ

3. 支援措置について

 今回の再生計画認定による廃校の転用は、木質ペレット工場を安価に建設できることとなり、学校施設を新エネルギーを軸とする新しい地域文化の発信拠点とするとともに、周辺の農業関係ともあわせて地域交流拠点としても位置付けることができた。

 地域再生計画の認定は、資金助成を得る制度ではないが、PR効果が大きい。当町では、ペレット研究会をはじめ、民間主導で事業を進めており、地域再生計画の認定により民間の活力が出てきたことも評価している。