愛知県 豊川市
とよかわイナリズム(豊川稲荷★住む)

 愛知県豊川市では、観光客の減少と中心市街地の衰退に歯止めをかけるため、「住んでいい、訪れていい都市づくり」を目標にさまざまな活動を行っている。ハード整備先行のまちづくりに疑問を呈し、できるだけ資金をかけずに「自分たちでできるところから」取り組みを始め、これに地域再生計画を適宜活用している。結果として来訪観光客数の下げ止まり効果が生まれているが、それ以上に地域全体の「まちづくり意欲」の向上効果が得られたことが意義深い。地元商店街の若手商店主など、地域に根ざしたキーパーソンの活躍によるところが大きいと思われる。

1. 地域再生計画策定について

(1) 地域再生計画事業内容

 豊川市は愛知県の南東部に位置し、豊橋市に次ぐ東三河地方の中核都市である(人口約12万人)。中心駅であるJR豊川駅前には、「いなり寿司」発祥の地とされる豊川稲荷があり、東三河における観光拠点となっている。しかし近年のレジャーの多様化などにより、初詣時期を除くと観光客数は減少の一途を辿ることとなってしまった。この現状に危機感を覚えた地元若手商店主たちが団結し、地域活性化の取り組みを進めることとなった。行政(市役所)主導で始まった取り組みではなく、地元から自然発生的に湧き上がってきた活性化気運に対し、支援措置などを活用することでそれらの活動を行いやすくした、という点で、地域再生計画の本旨に即した取り組みである。

 駅前商店街の商店主らにより組織された「いなり楽市実行委員会」では、「できることから始めるまちづくり」を合言葉に、まちづくりイベント「いなり楽市」の開催や手作りの景観整備、地域情報発信、地域ブランドの確立、名物商品の開発などを行っている。特に3月〜11月の毎第4日曜日に開催している「いなり楽市」は、昭和初期のレトロな雰囲気が人気を集め、2万人/回の大きな集客を得る大きな事業に成長している。

 地域再生計画では、道路占用許可の弾力化、補助事業により駐車場等として整備した施設の転用等(以上、地域再生プログラムに基づく)の支援措置を適用し、上記イベントを効率的に実施している。また居住者に対する快適なまちづくりを目的とした汚水処理施設整備交付金の活用等(地域再生法に基づく)も行っている。さらに、地域再生のための特定地域プロジェクトチームの編成(地域再生法に基づく)も活用し、地域特性に応じた事業計画の策定とプロジェクトの計画的な進捗管理を行っている。

(2) 計画策定のプロセス

 豊川地区再活性化については、昭和56年度より、商業活性化計画、道路整備や再開発事業等基盤整備計画、観光振興計画、景観形成計画など、数多くの計画を策定し、地元での説明会も開催してきた。しかしこれらも一定の活性化効果は得られたものの、都市計画道路などハード面での整備を中心としたものが多く、投資効果の面から具体的・抜本的なまちづくり実践には至らなかった。

 そのような中、平成14年10月、駅前商店街商店主である鈴木達也氏を中心とし、地域で自発的にまちづくりを検討・実践する地元の体制として「いなり楽市実行委員会」が組織された。以後毎週木曜日午後7時より、市役所職員有志も交えた会合を開き、夜中まで熱心に検討を続け、様々なまちづくりアイディアを生み出した。その中で官民がそれぞれの役割を理解し、地元中心の「できるところから始めるまちづくり」を協働で進めることとした。

 行政(市役所)は地元住民主体のまちづくりを重視し、地区全体の本格的な動きへと育てるため、ハード先行ではなくソフト先行のまちづくりへの施策切替えを行った。地域再生プログラムに基づき、路上イベントを円滑に開催できるよう道路使用許可を緩やかにする支援措置を取り入れたり、補助金を受けて建設した駐車場を目的外転用したりするなど、住民の活動を側面から支援する活動に徹している。


2. 地域再生計画実施について

(1) 進捗度(評価)

 豊川市地域再生計画では、計画の実施が地域に及ぼす経済・社会的効果として、観光の推進に伴う交流人口の増加、定住施策の推進による地域経済の活性化を挙げている。具体的な数値指標としては、観光入り込み客数の増加、定住人口の増加による経済効果を目標としている。
 交流人口の把握方法としては、代表的な駐車場の駐車台数や駅の乗降客数を代理指標として算定している。「いなり楽市」を月1回開催するようになってから、毎回約20,000人の観光客が訪れるので、観光客数はかなり増加していると言える。TVや新聞・雑誌等メディアでも取り上げられ、波及効果で平日の観光客数も少しずつ増えてきている。

 市域全域の定住人口はもともと増加傾向にある。大規模住区整備をしている地域が2箇所あるが、まちづくり交付金を活用することで事業が加速され、定住者が増えた。
地域再生計画の評価の際には公表は必ずするが、その際の具体的な意見聴取の方法として、市民アンケートを行うか、第三者機関による評価を行うかは未定である。

<主な評価指標と目標及び達成度>
観光入込客数:平成21年度までに291,002人の増加→平成16年度末の進捗率16%
定住人口: 平成22年までに3,925人の増加→平成17年3月現在の進捗率23%
汚水処理人口普及率: 平成21年度までに1.2%向上→平成17年度より事業中

(2) 効果(メリット・デメリット)
 
まちづくり活動を始める前の町並み(左) 「いなり楽市」開催時の商店街の様子(右)

 「いなり楽市」では、地域再生計画による支援措置も効果的に作用し、現在では約20,000人/回の集客のある事業となり、地域経済を活性化させている。地元住民の中で実行委員会に共感する人が増え、住民全体が豊川地区のまちづくりリーダとして育ちつつある。また、様々なメディアで注目されるようになったことで、市民の認識も高まり、市民が豊川稲荷に行くようになった。イベントへの参加意識も回を追うごとに増しており、今や市民総出と言っても過言ではない。

 また、今回の取り組みで中心的な存在となっている商店主などは、各地の講演で講師として招聘されるようになった。本人たちにも大きな自信となっており、意欲も劇的に上がっている。これは当初予想していなかった展開だという。

 さらに、市役所内でも、横断的な組織や考えが持てるようになった。以前はやはり縦割りで、これまではそういった考えは持ちにくかった。活動を通じ、庁内横断的にいろいろなことを考えられる体制となっている。職員全体の意識改革にもつながる動きである。

(3) 地域特有の資源の活用

 豊川稲荷及び駅前商店街に残る「時代に取り残された」イメージを逆手に取り、「古さ」「懐かしさ」を強調した展示などを行っている。各店舗の軒先や倉庫に眠っていた看板や道具などは、高齢者世代には懐かしく、若者世代には新鮮に受け止められている。

 地元には大学等研究機関は立地していないが、今後の取り組みとして、豊橋技術科学大学との共同研究による商店街整備を行いたいと考えている。これも地域再生のスキームを活用したいと考えている。

 

3. 支援措置について

【道路占用許可の弾力化、補助事業により駐車場等として整備した施設の転用等】

 道路使用許可については、以前は商店街単独で許可を得ようにもにべもなく断られる状況であった。それどころか、警察では防犯上の理由から歩行者天国もなくす計画でいた。地域再生計画支援措置を適用してからは、住民が承諾すれば公道上で何をしてもよいとされているが、これは3年間断られ続けてきたことが突如として可能となったということであり、インパクトは大きい。

【汚水処理施設整備交付金】

 市の汚水処理計画に従い、市内各所に下水道及び浄化槽を整備した。年度をまたぐ整備計画にも適用でき、また使途も限定されないため、エリア内の事業進捗度に応じた柔軟な活用が可能となった。これにより短期かつ集中的・効率的に汚水処理施設を整備することができた。

【特定地域プロジェクトチーム】

 客観的な現況評価、執行可能な具体施策抽出検討、地域特性に応じた事業制度の改革など、「街なか居住」の推進施策を検討する専門的な委員会を立ち上げた。市の担当部長に加え、国土交通省中部地方整備局、経済産業省中部経済産業局、愛知県の担当部局の参加も得た。今年度2回の委員会を開催済みである。これまでは様々な協議のために名古屋や東京まで出向く必要があったが、市にいながら、国と県の担当者同席のもとで施策選択ができるというメリットがある。