岩手県釜石市
スクラム21『チャレンジ・エコ』かまいしルネサンス計画
〜 ものづくり150年目の挑戦〜

 釜石市の再生計画は、かつての企業城下町から環境産業都市へと再生するための計画である。一般の地域活性化を超え、戦略的な産業転換をめざす壮大な取り組みである。このため、エコタウン、リサイクルポート、新エネルギーを三位一体で展開するとしている。同時並行する戦略的事業をマネジメントする釜石市役所、その推進グループ(不定形な人的結合)は能力が高い。

1. 地域特性と再生計画

(1) 釜石市の地域特性と再生の取り組み

 釜石市は、地域再生計画として「スクラム21『チャレンジ・エコ』かまいしルネサンス計画?ものづくり150年目の挑戦?」に取り組んでいる。

 釜石市は現在、人口4万人強である。日本近代の産業化の先駆け、150年の鉄鋼業とリアス式海岸線の三陸漁場、「鉄と魚のまち」だったが、新日鉄釜石製鉄所は平成元年に銑鋼一貫体制がくずれ、従業員は大きく整理された。水産業も遠洋漁業から近海、沿岸にシフトし、低迷した。主力産業の衰退で、釜石市の人口は60年代前半の9万人強から半減している。

 これに対し、釜石市では、蓄積されてきたものづくり志向や技術人材、市内外の水産・海洋系研究機能の集積を生かして、自立的な地域再生、資源循環型の産業づくりを平成12年前後から模索してきた。その努力の結果、15年にリサイクルポート(総合静脈物流拠点港)の指定を受け、16年には「かまいしエコタウンプラン」が承認を受けた。

 釜石市の地域再生計画は、地域の人的・技術的なソフト資源と既存の産業基盤をベースに、資源循環型、環境適合型の新産業づくりを核として活性化事業を進めようとするものである。

(2) 地域再生計画の事業内容

 釜石市の再生計画は、世紀を超えた釜石市の鉄づくりの歴史による「人、技術、産業基盤」の「ものづくり資源」を、資源循環型社会に対応した産業創出に活用することが柱である。すなわち、かつての企業城下町から環境産業都市へと再生するための計画である。一般の地域活性化を超え、戦略的な産業転換をめざす気宇壮大な取り組みである。

 このため、再生計画では、リサイクル(エコタウン・リサイクルポート)、新エネルギー(風力発電、バイオマス発電など)の2分野、「新生体材料事業(岩手大学との連携)」を含めた主要3事業で新たな基幹産業の創出をめざしている。

 なかでもエコタウン、リサイクルポート、新エネルギーを三位一体で展開するとしているが、中心的、直接的な産業振興事業はエコタウン事業である。水産加工廃棄物リサイクル事業、汚泥燃料化リサイクル事業、廃食用油再利用収集システム化事業で構成されている。釜石市の再生計画は、三位一体事業を軸に、環境産業振興によって活性化を進めることが当面の力点である。

(3) 計画策定のプロセス

 再生計画は、釜石市において先行し、あるいは並行しているエコタウンプラン、リサイクルポート、新エネルギーなど、循環型産業への転換戦略を統合して策定されている。

 エコタウン事業は、当初沿岸南部地域3市2町で承認をめざしたが、要件が整わず、釜石市単独のプラン作成に取り組んだ経緯がある。結果としてエコタウンプランは東北で4番目となった。

 同時に柱となっているリサイクルポートは、エコタウン事業を視野においてリサイクル産業の確立をめざすために運動を進め、第2次指定を受けたものである。全国で18港、東北では八戸港、酒田港と3港のみである。

2. 地域再生計画の実施

(1) 進捗度(評価)

 釜石市の再生計画では、評価のベンチマーク基準として、第一に、雇用機会の創出について平成20年度までに約200人増、第二に静脈物流貨物量を平成22年度までに416.4千トン、第三に静脈物流航路数は平成22年度までに6航路を示している。

 再生計画のスタートから間もなく、現在これらの進捗は緩やかである。雇用は現在50%程度の進捗となっているが、静脈物流の貨物量はまだ47千トン(11%)にとどまり、航路数も2航路である。しかし、市は、再生計画が順調に進捗し、効果も現れているととらえている。

 これは、第一に、着実な正面作戦をとっており、中長期的視点に立って経過を把握していること、第二に、18年度には物流基盤の整備レベルが格段に上がるので、その効果が本格的に作動するのを見越していることがある。

 さらに、主要事業の進捗状況を見ると、水産加工廃棄物リサイクル事業は、これまで未利用だったワカメやコンブなど水産加工廃棄物に着目したもので、民間5社が(協)マリンテック釜石をつくり、機能性食品原料の精製を開始している。

 また、自動車リサイクル法の施行にあわせ、岩手県内自動車関連53社によって(協)岩手オートリサイクルセンターが設立され、使用済み自動車リサイクル事業に取り組んでいる。このほか、エコタウンプラン外の多くのバイオ関連リサイクル事業、産学官連携事業が推進されている。

(2) 効果(メリット・デメリット)

 再生計画は、エコタウン、リサイクルポート指定などとあわせ、釜石市の産業転換戦略を国が理解し、強力に後押ししている証明と市民に受け取られている。同時に再生計画は、市が官民で推進中の戦略的事業について、その相互関係を確認し、取り組み方針を明確化することとなったので、市民、事業者との方向性の共有、連携のためのツールともなっている。

 人口減少や経済指標の低迷など、長期的トレンドの逆転には至っていないが、(協)マリンテック釜石の設立や(協)岩手オートリサイクルセンターの立地など、港湾地区の施設整備を中心に、転換戦略の確実な進展が市民の目に見えやすいものとなってきた。また、18年度には、仙人峠道路、釜石港湾口防波堤、公共ふ頭拡張工事の完成などによって、物流基盤の整備レベルが格段に上がる節目となる。その効果への市民、事業者の期待は大きい。

 こうした事業の進展に伴い、この大きな転換戦略を主導してきた市役所への信頼感が培われている。また、事業の方向性についての、市長以下、市役所推進グループの確信も堅いものとなっている。

(3) 地域資源、地域能力の活用

 産業転換に際して、釜石市の人的蓄積やネットワークは大きい。鉄鋼業を筆頭に東北屈指の工業地帯だったことから、ものづくり産業の事業所が多いことは大きな強みである。研究機能にも、岩手県水産技術センター、海洋バイオテクノロジー研究所、大槌町の東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センター、大船渡市の北里大学水産学部などがある。

 再生計画の事業内容は、これらの事業者、研究者と事前協議を進めたものである。むしろ、これらの地元事業者や研究者の意欲を事業化した色彩が強く、計画推進に緊密な協力、協働関係が構築されている。

 その点で最大の資源は、これらのソフト資源をつなぎ合わせ、粘り強くプロジェクト化を進めてきた釜石市役所であり、その組織内に台頭してきたニューディールグループの存在であると言える。その事業化への熱意と能力は大きい。

 一方、地域のハード基盤は新日鉄に依存し、公共的な社会基盤の整備は大きく遅れていた。しかし、道路・港湾などの整備が進み、平成18年度には大きな節目になる。とりわけ港湾のポテンシャルは非常に高いものになる。岸壁は東北最大水深(-14m)、岩手県内唯一の耐震強化岸壁であるが、完成する釜石港湾口防波堤は水深世界一(-63m)になる。

3. 支援措置について

 再生計画の推進のため4つの支援措置を適用している。第一に、特定地域プロジェクトチームの設置、第二に、エコツーリズムの支援、第三に、バイオマスタウンの実現に向けた取り組み、第四に、エコタウン事業の補助採択用件の緩和である。

 平成17年3月には、国・県・市・地元経済界によって「特定地域プロジェクトチーム」が設置された。それに先だつ16年9月には、市役所の内部組織として「釜石市特区・地域再生推進本部」が置かれた。この推進本部やそれを支える市役所内のチーム的な結合が、実質的に計画の推進力である。

 個別の支援措置の効果は、計画スタート後の時間が短く十分把握することは難しい。また、そもそも釜石市の再生計画や関連計画は、総合的一体的であり、個別支援措置の効果を取り出して計測することが難しい組み立てになっている。市役所の推進チームは、より効果的な事業を選び出してそこにかけるというより、さまざま支援措置を活用しながら、骨太に方針を貫いていくことに長けた集団として機能している。