滋賀県 大津市
びわ湖大津・工業フェニックス計画

 滋賀県大津市は、京阪神大都市圏への近接性や国土幹線に位置する交通利便性などにより、古くから内陸工業地域として発展してきた。近年には、大学等の立地が進み、大学との連携による新たな産業活性化が進められようとしている。しかし、既存工場では、全国的な産業構造空洞化の問題とともに、市街地の交通問題、規模拡大の困難さ、工業用水利の問題など、操業環境の充実を求める声が高くなっている。そのため、それら問題を包括的に、ハード・ソフトの両面から既存事業所の操業環境改善に向けた取り組みを実施している。

1. 大津市の概況


 大津市は、滋賀県の南西部に位置し、人口28.8万人、面積302q2を有する県都である。

 琵琶湖に面し、比良山、比叡山などの豊かな自然環境を有するほか、世界遺産に登録された比叡山延暦寺や7世紀に大津京が営まれた歴史環境に恵まれた地である。

 京都駅まで10分、大阪駅まで35分と、関西中枢部へ近接するほか、国道1号、名神高速道路といった幹線道路のほか、JR琵琶湖線、東海道新幹線などの高速交通網体系に恵まれている。

 このような立地条件とともに、琵琶湖の水利を活かし、戦前から多くの企業が立地しており、敷地面積が5ヘクタール以上の工場が8社創業しており、平成14年時点において、工業出荷額が4,018億円、工業従業者数が13,700人と工業地域としての性格を有している。

 近年では、龍谷大学や立命館大学が市域及び近隣に移転してきており大学・短大が6校あるほか、21の研究所が立地するなど高等教育・研究機能が集積している。

 平成18年3月に、志賀町との合併を控えているが、合併後は人口32万人となり、中核市としての要件を満たすこととなる。

2. 地域再生計画の背景と申請までの経緯

 大津市は、交通利便性や琵琶湖の水利を背景に工業地域として発展してきたが、産業構造の変化などに伴い、近年のピーク時と比較すると工業出荷額は−14%、従業員数は−27%と低下しているほか、ここ10年間で大手工場が5社閉鎖するなど、産業空洞化が懸念されている。

 このような状況下において、市北部でびわ湖サイエンスパーク(約220ヘクタール)の整備、市南部において滋賀県経済振興特区および構造改革特区の認定を受けるなど、新事業者の創出などによる工業振興に向けた取り組みを実施している。

 一方、琵琶湖の南端及び瀬田川周辺に集積する大規模工場や、市内の既成市街地に立地する中小工場など、既存の事業所の活性化に向けた対策が急務となっていた。

 これら既存事業者に対して、要望の聞き取り調査を実施すると、
@ 現在、敷地を最大限に利用しているため、余剰敷地がなく工場の新設など新規投資を行う余地がない
A 半導体などの水を大量に消費する工場では、生産拡大のためには水量の確保が必要となっている
B 古くからの市街地に立地している工場では、慢性的な交通渋滞などによりアクセス条件が悪化している
などの問題が指摘されたが、@については工場立地法による制限、Aについては琵琶湖総合開発事業による工場の取水制限、Bについては市内の道路ネットワークの脆弱さがネックとなっていることが明らかとなり、それらへの対策が求められていた。

 また、今後、大津市に中核市の指定がなされると、既存事業所には新たに事業所税が課せられることとなるため、大津市としては、既存事業所に対する操業環境の向上に向けた取り組みを行うことが必要となっていた。

 このような状況の中で、前述の工場立地法による緑地面積率の緩和や工場の取水制限の拡大に向けた検討においては、国や県などの個々の関係機関への交渉が必要であったが、これら問題解決に向け国や県などの各関係機関と一緒に協議する場を確保できるほか、総合的な対策として検討を行うことが可能となることなどから申請へといたっている。

3. 地域再生計画の実施状況

 "びわ湖大津・工業フェニックス計画"は、既存企業の事業活動の高度化や新分野への進出促進、産業の空洞化を未然に防止するために、湖岸に立地する既存工業群を中心に事業環境を整備することを目的に実施されている。
 具体的な支援措置としては、

11203 地域再生支援のための「特定地域プロジェクトチーム」の設置
211001 工場立地法の地域準則に関する権限委譲
212011 みちづくり交付金事業の運用改善(目標達成型の導入)
212015 「地域再生支援チーム」の設置
212028 まちづくり交付金の創設


を実施することとしている。

(1) 地域再生支援のための「特定地域プロジェクトチーム」の設置

 近畿経済産業局、近畿地方整備局、滋賀県、地元経済界、大津市からなる"びわ湖大津・工業フェニックス計画プロジェクトチーム"を組織化し、その下部組織として工業振興部会と工業基盤整備部会を設置している。工業振興部会では、主に工業用水の水利権や工場立地法に基づく緑地面積率の緩和に関する協議を、工業基盤整備部会では道路を中心とした基盤についての協議を実施している。今年度中に、それぞれの方向性を示すこととしている。

(2) 工場立地法の地域準則に関する権限委譲

 湖岸に立地する工場の多くは、戦前に立地しており、周辺の宅地化が進む中で、工場の敷地拡大が難しい状況にあり、今後、限られた敷地内での設備投資を進めるためには、工場立地法に基づく緑地面積率を引き下げるなどの措置が必要となっている。

 そこで、工場の設備投資・研究開発投資などを支援するため、工場立地法の緑地率に関して、滋賀県と地域準則に関する権限委譲に関する協議を進めることとしている。

(3) みちづくり交付金事業の運用改善(目標達成型の導入)

 大津市は、琵琶湖と比叡山等の山地に挟まれた平地に市街地が形成され、そこへ名神高速道路や国道1号などの幹線道路がはしっており、幹線道路の慢性的に渋滞を引き起こしているほか、湖岸の工場の多くが密集市街地内に立地しているため、工場へのアクセス路が脆弱であるといった課題を有している。

 そこで、渋滞ポイントの交差点改良などを進め、工業基盤の整備と交通安全性の向上を合わせて改善していくこととしている。

(4) 「地域再生支援チーム」の設置

 厳しい国際競争にさらされている既存工場の操業上の課題解決、研究開発型の新たな産業育成に向け、ワンストップの相談窓口として、国が設置している「地域再生支援チーム」を活用したいと考えている。主な相談内容としては、@新産業機能や研究開発機能を誘致するための条件整備、A産学官ネットワーク事業を円滑かつ効果的に進める手法、B住居系用と地域内の既存工場の移転に関する助成措置等の相談を行うこととしている。

(5) まちづくり交付金の創設

 大津市では、「まちづくり交付金」の前身である「まちづくり総合支援事業」を平成12年度より6地区において展開してきており、その継続的展開を進めることとしている。
 特に、大規模工場が立地する石山駅周辺地区について、新規採択を受けて、展開を進めている。


4. 計画の進捗状況と課題

 工場立地法の緑地率の緩和については、滋賀県が、これまで環境こだわり県としての施策展開を行ってきており、環境上有効な施策と位置付けられる緑地面積率の緩和を行うことは、難しい状況にある。また、水利権については、現時点においては推理枠に余裕がなく、現在見直されている琵琶湖・淀川水系のフルプランにおいても、工業用水への配分は難しいとされている。大津市では、上記2点の規制緩和に関して、地域再生事業の実施により、権限を有する国がリードしてくれるものと期待していた面があったが、大きな成果をあげるにはいたっていない。

 一方、まちづくり交付金については、「まちづくり総合支援事業」から取り組んでいたもので、これまでの経験もあり着実に展開できているとともに、交付金の充当割合を自由に設定できることが、事業全体の進捗を高めていると評価している。

 また、これまで滋賀県による産学官連携による取り組みが行われているほか、平成15年度より製造業調査や大学と企業の連携を進めるコーディネート事業、経済特区など、多様な事業や計画などが複合的に展開が進められており、相乗効果が期待されている。

 そのほか、独自に、工場の設備投資に対する助成措置や住居系用途地域内の工業移転に関する助成措置、総合的な産業振興策への展開を進めようとしている。