大阪府 東大阪市
東大阪モノづくり人材育成計画

 大阪府東大阪市は、中小企業のまちとして全国的な知名度もあり、これまでも様々な取り組みを実施しており、中小企業の活性化については先進地である。平成11年に実施した職員による、市内の全中小企業への聞き取り調査などを経て、市内事業所との協働による基盤が形成されており、地元事業所団体の活動の検討から地域再生計画へつなげており、産官連携による産業振興の仕組みのモデルが形成されつつあると見られる。特に、地元事業者が抱える、高度な技術の継承や中小企業のウィークポイントである営業人材の育成といったポイントにのみ焦点をあて計画を実施しており、ボトムアップ型の事業展開を進めている。

1. 東大阪市の概況



 東大阪市は、河内平野のほぼ中央部に位置し、人口51.2万人(H17.11.1)、面積61.81302q2を有する市である。昭和42年に、布施、河内、枚岡の旧3市の合併によりできた市で、平成17年4月に、中核市に移行している。
隣接する大阪市から、近鉄奈良線、東大阪線、JR学研都市線、近鉄大阪線が連絡するほか、中央環状線、外環状線(国道170号)が南北にはしり、大阪市と連たんした市街地を形成している。

 江戸時代には、平野部において新田開発が進み、商業都市大阪に隣接する立地から河内木綿の生産が高まり、農業地域として発展するとともに、山ろく部において水車を利用した胡粉製造や薬種粉末の製造も行われていた。明治期に入り、水車を利用した伸線業が成長し、さらに戦後、大阪市内から機械・金属系の中小工場が多く移転し、現在の中小企業のまちとしての性格が形成されている。

 現在では、東京都大田区とならび、国内有数の中小企業のまちとして知られ、近年では、民間企業による人工衛星打ち上げなどの構想が発表されるなど、全国的に産業空洞化が懸念されるなかで、元気な中小企業のまちとしてのイメージが定着しつつある。

 

2. 地域再生計画実施の背景

 東大阪市は、金属製品を中心とした多種多様な基盤的産業が集積する「モノづくり」の町として知られ、近年では、メイドイン東大阪の人工衛星の打ち上げや、ナノテクノロジーの分野で注目を浴びる中小企業が立地するなどの特徴がある。

 一方、バブル経済崩壊以降の平成2年と平成15年では、事業所数で−28.7%、従業者数で−33.2%、製造品出荷額で−43.7%と大きく低下しており、地域産業の活力低下が課題となっている。

 中小企業の活力低下の一方、大阪市への交通の便のよさから、工場跡地での戸建住宅建設などが進んでいるものの、固定資産税率の高い工場地が住宅地に変わると、税収が1/5〜1/6程度に減収するといったことや、雇用吸収力が低下することにより、周辺商業へも影響することが懸念されている。

 このような状況の中で、平成11年に、庁内の課長級以上の職員全員が、市内の8,900事業所に対してヒアリング調査を実施し、市内の事業所のきめ細かなデーターベースを構築している。

 こうした取り組みなどから、事業者と市とのネットワークが形成されたほか、市内の優れた技術やノウハウを有する事業所を把握でき、トップシェアや独自技術を有する事業を紹介する「きんぼし東大阪」の発行や、事業所の有するノウハウを生かした体験教室の実施など、具体的な産業振興に向けた取り組みにつなげている。

 また、東大阪ブランド推進機構により、「オンリーワン」「ナンバーワン」「プラスアルファ」の製品を、東大阪ブランド認定製品として広くPRを行う事業などを展開しているほか、ワンストップ・サービス窓口を設け、豊富な経験・知識を持つコーディネーターが、市内中小企業者の国内外との取引拡大を、無料でトータルサポートしている。

 さらに、平成15年には独自の「東大阪市モノづくり経済特区構想」により、高付加価値製品製造業への転換促進や、創業・第二創業の促進が進められているほか、平成17年に構造改革特区として「東大阪市モノづくり再生特区」が認定され、工業再配置促進法において、市内の一部に指定される移転促進地域の指定除外を行い、基盤的技術産業集積の維持発展を進めようとしている。

 

3. 地域再生計画の申請目的と内容

 東大阪市の中小企業の課題として、高い技術力を有する基盤的事業所が多いが、その大半が20名以下の小規模企業なうえ、技術者が高齢化しており、2007年問題を控えるなかで、高い技術力が継承されないことが大きな課題となっていた。また、小規模事業所の多くは、営業人材を有しておらず、販路開拓が弱いことなどが課題となっていた。

 そこで、モノづくり企業の技術継承、中小企業の営業企画人材の確保を目的に、地域提案型雇用創造促進事業を活用し、モノづくりに係る人材育成に向けた取り組みを実施している。
具体的には、以下のような取り組みが実施されている。

@ モノづくり人材教育訓練事業の実施

 モノづくり技術習得のためのカリキュラムを作成、1ヶ月の訓練を経て、市内の事業所への就職へと繋げる事業を実施している。
 前半2週間は、高等職業技術専門校において、製図やフォークリフト操作、アーク溶接技術の習得(資格取得)を行い、後半2週間は、市内の事業所において、実地訓練を行っている。
 今年度は、20社の協力を得て20名の募集を行ったが、18名が参加し4名が入社するにいたっている。参加者は18〜38歳の東大阪在住者が多く、もともとは技術者ではなかった人が大半であった。

A モノづくり企業の営業企画員養成講座

 中小企業の弱点である販路開拓力を強化するため、また、以前は近畿圏内からの受注が多かったが、バブル経済崩壊後、近畿圏内の発注量が減少したため、全国からの受注を行う必要性が生まれており、営業企画員の資質向上に向けた講座を開設している。
 はじめの10日間はパソコン教習や接遇訓練、その後5日間の営業スキルアップ講座の受講を経て、市内の事業所で2週間の実地体験を実施している。
 今年度は、20名募集を行い、8名の参加が得られたが、入社までにはいたっていない。

B モノづくり企業で働く若者などを紹介する情報誌の発行

 市内事業所で働く若者や経営者の紹介のほか、雇用関係イベントなどの情報を掲載する情報誌を発行し、近畿圏の13大学などに配布し、若年層のモノづくり企業への就職を身近なものと感じてもらうための事業を実施している。
 今年度は、10月と12月に各8000部を発刊し、大学や公的施設、近鉄主要駅にて配布している。情報誌の製作にあたっては、地元大学の学生が記者として紙面づくりを行うなど、若者の視点で構成されている。

C モノづくり企業と若年求職者との面談会

 モノづくり企業に限定した若年求職者との面談会を開催することとしている。
 また、独自事業として、周辺市などと連携し、大学卒業予定者を対象とした企業との個別面談会「就職フェア」、離職者を対象とした「就職フェスタ」を開催することとしている。

 

4. 計画の進捗状況と課題
 各パッケージ事業については、東大阪モノづくり人材育成協議会を中心に実施されており、事業終了後には、協議会において評価することとしている。

 @とAの事業については、就職マッチング事業として実施され、数名の就職につなげているが、募集時に多くの問い合わせがあったほか、マスコミ等に取り上げられるなど、大きな反響を得ており、中小企業のまちとして頑張っていることを広くPRできたものと考えられる。

 また、Bについては2回発行しているが、ユニークな取り組みとして評価され、地域再生計画終了後も、市独自の取り組みとして展開していくことが検討されている。