千葉県
地域の活力・中小企業再生プラン

 「中小企業再生ファンド」の設立は、信金、信組の同意獲得に手間取り難航した。選別型再建の方式は利害対立が生まれやすく、不況とその克服過程における地域格差の拡大もあって、官民一体、地域一体の枠組みはなかなか成立しない。有効な支援のためには、地域再生計画の立案段階、それに先立つ現状評価の段階から、(金融機関など)地域再生の担い手による率直な利害調整とコンセンサス獲得が必要である。

1. 地域再生計画

(1) 地域再生計画の事業内容

 千葉県の「地域の活力・中小企業再生プラン」は、地域雇用に比重の高い中小企業活性化のため、総合的支援を打ち出している。主な事業の第一は、技術革新、新分野進出、事業転換などの取り組み支援であり、CLO(貸付債権担保証券)の仕組みを活用した融資である。第二が、事業再構築による再生支援(地域中小企業再生ファンドの組成、企業再生支援基金の創設など)である。

 このプランの実質的な中心は、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が出資する官民一体型の地域「中小企業再生ファンド」の組成である。平成16年度末の組成、出資規模30?50億円を計画していた。

 この「中小企業再生ファンド」は、地域金融機関からの債権買い取り、中期的な株式・債券保有で再生をめざすもので、中小機構、千葉県(産業振興センター)、地元金融機関が有限責任、ファンド運営会社が無限責任の組合員となって組成するオーソドックスなものであるが、千葉県の場合、「県中小企業再生支援協議会」との連携のもとで事業を進める。

 平成15年に発足した「再生支援協議会」は、金融と産業の一体再生をめざす政府の産業再生機構の千葉県版組織である。この「再生支援協議会」が政策を推進するうえで有力な道具とするべく「中小企業再生ファンド」の組成が企画された。このため、一方で民間の再生ファンド組成が予定されていたが、それとは別に、より長期的再生をめざすものと位置付け、企画されていた。また、再生途上の資金需要については、政府系金融機関の支援を見込み、県も新制度(「企業再生支援基金」)で支援することとしていた。

(2) 計画策定のプロセス

 「中小企業再生ファンド」組成を中心にした再生計画の策定は、「再生支援協議会」が政策推進の有力な道具をもち、官民一体の地域中小企業対策に弾みがつくこと、金融機関への説得材料となることがあり、行政組織の内部的には、予算づけ上の説得力強化を期待したものである。

 「中小企業再生ファンド」の組成は、地域金融界と県との政策連携の軸を求めた面がある。地域雇用対策、地域不況対策に決め手は容易に見つからないが、「再生支援協議会」の支援により中小企業が再生計画を策定しても、それまでの金融支援のスキームでは不十分との認識からファンド設立がめざされた。

 

2. 地域再生計画の実施

(1) 進捗度(評価)

 千葉県の再生プランでは、ベンチマークする事前の評価基準として、第一に、年間100件以上の経営革新(経営革新支援法に基づく承認)を支援すること、第二に、CLO活用融資について、2割を県民投資とする仕組みで域内資金循環を高めること、第三に、「中小企業再生ファンド」組成後3年間で15件の再生に取り組むこと、これらに企業立地、起業増加を組み合わせ、第四として、完全失業率を14年5%から20年4%とすること、第五に、事業所開業率4.8%を20年度6%とすることを上げていた。

 再生計画のスタート後まもないことから、効果を測定評価する段階に至っていないが、平成17年度末の段階で、再生計画の実質的な中心内容である「千葉中小企業再生ファンド」(仮称)」が設立の運びになった。地銀3行と県内5信金、3信組が計10億円、中小機構が9億円、県が(外郭団体経由で)1億円の計20億円を出資する。支援対象は「再生支援協議会」が再生計画を策定した中小企業である。「再生支援協議会」はこれまでに24社の再生計画を策定済みで、「中小企業再生ファンド」はそれに対する金融支援の枠組みとなる。

 この「中小企業再生ファンド」の設立は計画想定より遅れ、ヒアリング時点では実現見通しも透明ではなかった。千葉県はすべての金融機関の参加を求めたが、県内の地域経済事情の違いを反映して、地銀と信金、信組との利害が一致しなかった。複数機関が消極的な意志を示し、幹事行が説得作業を進めても容易に同意が得られない状況があった。

 この背景には、今回の「中小企業再生ファンド」が当初、地域経済再生の決め手事業として必ずしも位置付けられていなかったことがある。また、これまでの地域総力型、官民一体型の事業と異なる政策アプローチであることを踏まえた、十分な現状評価(地域資源、地域能力の評価を含む)とコンセンサスの事前獲得努力が必要だったと考えられる。

(2) 効果(メリット・デメリット)

 組成される「中小企業再生ファンド」が、今後所期の成果を上げることが強く期待されるが、ヒアリング時点では、実質的な中心内容であるこのファンドの組成が未だ実現せず、実現見通しも透明でない状態であった。したがって、これまでのところ再生計画が十分に活性化効果を上げつつあるとは言えず、今後の推移を見守る必要がある。

 「中小企業再生ファンド」組成作業のプロセスにおいては、地銀と信金、信組の利害の違いが鮮明になり、これまで多くの都道府県において産業政策の共通基盤であった「地域一体の協力」が、実はもはや容易ではないという事態が明らかになってきた。組成されたファンドが公平性を重視した選別基準を適用すれば、こうした地域経済事情の違いが再び浮かび上がることも十分予想される。再生計画が今後、十分な効果を上げていくことは簡単ではないと思われる。

(3) 地域の資源、能力(インプット)との関係

 この再生プラン、特に「中小企業再生ファンド」組成計画では、地域の不況克服のため、また、「再生支援協議会」の効果的な政策推進ツールとするために、地元金融界の一体的な協力体制の実現を描いていた。

 しかし、千葉県では、地銀中心の純民間ベースで再生ファンドが先行組成され、一定条件の案件には対応可能になっていた。平成16年2月に、千葉銀行、京葉銀行、千葉興業銀行の3地銀が協定して設立した「ちば再生ファンド」である(その後、全信金、信組も参加した)。再生ファンドはプロの事業であるから、県プランの(中小機構が出資する)官民一体型「中小企業再生ファンド」を組成した場合、実質の担い手が重なり、屋上屋になりかねない可能性があった。

 事実、「ちば再生ファンド」の運営会社(株)ジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)は、先立って福岡県、岡山県、その後も三重県、宮城県、青森・秋田・岩手3県、奈良県、群馬・埼玉・栃木3県などで運営を担っている。そして、これまで、中小機構が出資する「中小企業再生ファンド」は、こうした民間ファンドがない地域で組成されてきたが、千葉県はこの両者が重なる例となった。

 信金、信組の動向の背景には、民間の再生ファンドがある上で、さらに残る再生案件があるのか、あっても地銀3行の債権にほぼ限定されるのではないかとの懸念があった。不況とその克服過程における地域格差の拡大もあり、自らの対象企業が買い取り先にならず、利益にならない出資になるのではないかという信金、信組の懸念には一定の根拠がある。
 一方、再生ファンドの買い取りは、地銀にとって債権放棄に近いものでもある。「中小企業再生ファンド」は「ちば再生ファンド」より条件が厳しくリスクが大きい案件が対象にならざるをえないから、出資倒れになる可能性も無視できない。この点で、地銀3行にも必ずしも積極的になれない要素があった。

 地域金融機関は、地域産業・金融政策に関する地元最大の投入資源(インプット)であり、能力である。しかし、千葉県プランの「中小企業再生ファンド」組成の場合、地域金融機関の能力や協力を引き出しにくい枠組みとタイミングになっていた。再生ファンドは、たとえ中小機構出資の官民一体型再生ファンドであっても、本質的に選別型再建の意味合いをもつ枠組みである。このため、官民一体の協力をめざした事業であるにも関わらず、かえって、行政と金融機関、地元金融機関相互の利害一致が難しくなった地域経済の現実を示す経過をたどることとなった。

 

3. 支援措置について

 この再生計画に適用されている主な支援措置は次の通りである。第一に、認定地域限定である、地域資本市場育成のための投資家教育プロジェクトとの連携、以下、全国対象の支援措置であり、第二として、政府系金融機関の特別貸付の対象等の拡充、そして第三に、地域中小企業再生ファンドの組成促進、第四に、国民生活金融公庫の企業再生に係る特別貸付制度の創設である。

 千葉県の再生プランでは、すでに「中小企業再生ファンド」組成以外の支援策は動き出していたが、実質的に中心的期待があったのは「中小企業再生ファンド」の組成促進であり、それがあって他の支援策も効果的につながっていく関係になっていた。この「中小企業再生ファンド」の組成がこれまで順調ではなかったため、支援措置の大きな部分が動き出さない状況になっていたが、今後、「再生支援協議会」が金融支援の枠組みを持ったことで、全体として再生計画が大きく動き出すことが期待される。