総務省が全国の市区町村を対象として平成15年4月に実施したアンケート結果によると、「学校用務員事務」の委託実施比率は20%と低く、16項目の一般事務のうち最も外部化が進んでいない分野の1つとなっている。そこでここでは、九州で学校用務員等の外部委託や非常勤化を進めている3つの自治体を取り上げた。
各自治体によって取り組みをスタートした時期や、分野、手法、効果の測定方法等は異なっているものの、いずれも人件費の削減効果は大きい。行政の体質や教育分野への行政の関わり方などは、それぞれで異なっているため、今後取り組みを進める場合、地域の実情に応じて進める事が肝要であろう。
 

2. 効果検証

2−1.経費削減効果は宗像市と荒尾市で大

 3市とも学校用務員等の外部委託・非常勤化を進める事によって、大きな経費削減効果をあげている。
 久留米市の場合、平成16年度で3ブロック(18校)での委託を実施しており、約3,000万円弱の経済効果を得ている(事例表 9- 2)。ただし、移行期間の1年目は1ブロックあたり2人の市職員が指導員として新たに配置されていることから、宗像市や荒尾市と比べると校務員1人あたりの効果は低くなっている。そこで、平成17年度からは2ブロックに1人の指導員を付ける形に移行して、効率化を図る予定である。

事例表 9- 2 久留米市における学校校務員のアウトソーシングの効果

(単位:校、人、千円)

  学校数 校務員業務職員数 小計 経済効果
直営校 委託校
(管理公社)
正規
(市職員)
嘱託 市職員
(派遣)
嘱託
平成11年度
(実施前)
43 38 7 0 0 45 -
平成13年度
(1ブロック)
43 31 8 2 5 46 7,900
平成14年度
(1ブロック)
43 31 8 2 5 46 9,700
平成15年度
(2ブロック)
43 26 7 3 12 48 16,200
平成16年度
(3ブロック)
43 20 7 4 18 49 28,900
平成17年度
(4ブロック)
43 17 5 2 23 47 67,300

注)1.直営校の市職員給与は850万円、嘱託賃金は320万円で試算
  2.委託校の嘱託分は、委託決算額(推計含む)
資料)久留米市教育委員会

 宗像市の場合は、外部委託・非常勤化を進めた15校分の学校用務員の経費削減効果として約1億1千万円が推計されている(事例表 9- 3)。非常勤化を進めた学校事務員についても約1億2千万円の削減となっている。なお、学校図書司書については、平成14年度の合併前の状態(5名:市職員(人件費単価約890万円)、11名:臨時職員(同約125万円)、3名:常勤嘱託職員(同約240万円))から、平成15年度に19名の非常勤嘱託職員(同約200万円)への移行を図ったものの、同時に市職員3名を学校図書館係として配置したため、全体としてみれば特段の人件費削減には繋がっていない。
 荒尾市においては、学校用務員4名分(ただし、実際には年度途中でさらに1名が追加)、の外部委託、司書3名分の非常勤化によって、それぞれ約2,500万円、約1,400万円の経費削減に繋がっている(事例表 9- 4)。

事例表 9- 3 宗像市の学校用務員・事務員のアウトソーシング等の効果

単位:千円

  学校 配置状況
(平成16年度)
平成16年度
予算
(A)
直営経費
(試算)
(B)
経費削減効果
(C)=(B)-(A)
学校用務員 小学校
(14校)
13校:外部委託
1校:臨時職員
18,619
1,685
115,726
8,902
97,107
7,217
中学校
(6校)
1校:外部委託
5校:未配置
1,433
0
8,902
0
7,469
0
21,737 133,530 111,793
学校事務員 小学校
(14校)
13校:非常勤嘱託職員
1校:未配置
26,481
0
115,726
0
89,245
0
中学校
(6校)
4校:非常勤嘱託職員
2校:未配置
8,148
17,804
35,608
17,804
27,460
0
52,433 169,138 116,705

注)1.平成16年度予算は当初予算ベース
  2.直接経費は市職員を配置した場合(平均給与8,902千円)で算出
資料)宗像市財政課

事例表 9- 4 荒尾市の学校用務員・司書のアウトソーシング等の効果

学校用務員(4名分)         単位:円
  平成15年度
決算額
(A)
委託化校
人件費
(B)
シルバー
人材
センター
委託費
(C)
影響額
D=B-C
時間外手当
削減額
E
平成16年度
行革影響額
D+E
小学校
(12校)
104,368,273 8,540,537 1,485,000 7,055,537 3,651,183 10,706,720
中学校
(5校)
76,843,419 16,974,190 4,455,000 12,519,190 1,511,129 14,030,319
注)中学校の委託化校2校は、再任用職員

司書(3名分)
  平成15年度
決算額
(A)
非常勤化
校人件費
(B)
非常勤
人件費
(C)
影響額
D=B-C
時間外手当
削減額
E
平成16年度
行革影響額
D+E
小学校
(12校)
104,368,273 - - - - -
中学校
(5校)
76,843,419 25,169,655 3,802,000 21,367,655 - 14,030,319
資料)荒尾市企画管理部総務課

3. 住民の反応

3−1.一部に学校長の用務員・事務員の配置要望も

 地域住民の反応については、3市ともこれと言った意見や要望が行政に対して寄せられている状況ではないものの、一部に学校長からの評価や要望が出されている。
 久留米市では、調整を図りつつ段階的に進められていることもあり、現段階では住民からの要望は届いていない。一部の学校長からの反応としては、管理公社で優秀な人材が確保され、業務の移行はスムーズに行っているとの評価を得ている。
 宗像市の場合、中学校のうち大規模校を除く5校については用務員を未配置であり、事務員については、中学校2校を除いて、17校で非常勤化が進められている。したがって、各学校長からは、非常勤ではなくフルタイムの事務員の要望と、用務員の全校配置の要望が毎年出されている。これを受けて宗像市の担当部署では、学校現場を実際に見てフルタイム化や配置するかどうかを判断していくこととしている。一方、市の財政当局では、学校現場で何とか業務が遂行されていると判断しており、市財政が厳しい中で新たに職員を配置することは、よほどの事がない限り難しいと思われる。
 荒尾市の場合、取り組みが今年度からスタートしたばかりであり、これと言ったクレーム等は教育委員会等には届いていない。学校用務員の外部委託や司書の非常勤化を進めるに際しては、事前に各学校に連絡が取られているが、特に反対もなく、これまでの所スムーズに移行されている。ただし、年度が終了した時点で、各学校長から何らかの評価が下されるとみられている。

4. アウトソーシングの問題点と改善方法

4−1.退職者の非補充と本体への引上げが基本、組合との調整も必要

 外部委託や非常勤化を進める場合、既に配置していた市職員をどうするかは基本的に2つのパターンで対応されている。学校用務員・事務員のなかで退職者が発生した場合に外部委託や非常勤化を進める場合と、用務員・事務員として配置していた市職員を本人の希望を勘案しつつ異動により引き上げて進める場合である。立案から実施に至るまでのプロセスを考慮すると、後者は本人の意思の尊重や各部署との調整作業が必要であることから、前者の方が相対的にスムーズに実施される傾向にある。
 また、外部委託等を進めるに際して必要になるのが、労働組合との調整作業である。現業部門における職場が少なくなることは、労働組合にとっては職域の縮小に繋がるので、労働組合は外部委託や非常勤化に基本的に反対の立場を取る。従って、労働組合の活動が盛んな自治体ほど、調整に労力が割かれることになる。加えて、給与体系についても現業部門と事務部門で違いがなく一本化されているかも、人事異動が比較的スムーズにいくかどうかを左右する要因となる。
 さらに、現業部門の中でも、教育分野は特殊で、自治体によっては一種の聖域に近いような意識が醸成されていた事も、取り組みが遅れている一因となっていると考えられる。

4−2.必要な業務量の見直しも検討課題に

 久留米市の場合、各ブロックに指導員を配置して校務員のバックアップ体制を取る事の背景には、新規に雇用された校務員が業務に慣れて難なく遂行できるまでの移行措置という事が大きいが、加えて学校校務員の週3日に及ぶ文書送達・連絡業務が煩雑で、集中化させようというねらいもある。
 しかし一方で、宗像市や荒尾市の場合は、シルバー人材センターへの委託だけで特段の支障もなく進めている。さらに宗像市の場合、教育委員会への文書等の送達は、週に2回程度で、しかも毎回、用務員が送達を行うのではなく、学校長や教諭が何かのついでに届ける場合も多く、この業務が各用務員の通常業務を遂行する上で大きな負担となっているとは考えにくいという。
 各教育委員会の考え方の違いや地域的特性などは十分に尊重されるべきであるが、用務員の詳細な業務内容とともに、サービスを享受する側の満足度についても比較考量し、場合によっては思い切った業務内容の見直しを図る事も検討課題となりうるであろう。

5. 今後の展望

ニーズに的確に対応したサービス体制構築を

 学校用務員等の業務は、これまで一種の聖域として手がつけられてこなかった分野であるだけに、今後、自治体にとってアウトソーシングを進める余地は大きい。
 これまで3市の事例を通してみてきたように、学校用務員事務分野のアウトソーシングを図ることは、人件費に直結する部分であるだけに、経費削減効果としては非常に大きいものがあった。
 しかし一方では、学校用務員や事務員、学校図書司書の仕事は、次代を担う子供たちの教育現場としての学校でのサービスや環境整備に関わる重要な業務である。外部化や非常勤化を進めることで、労働時間や勤務日数は削減されても、必要なサービス水準は落とさない工夫が求められるであろう。
 例えば、導入されて間もない現段階で評価を下すことは難しいが、荒尾市での図書司書の場合は、非常勤化を進めたにも関わらず有資格者の雇用に成功している。人口の定住率が高い宗像市の場合は、学校用務員業務を受託したシルバー人材センターの裁量で、各地域から献身的で能力の高いお年寄りを派遣し、サービス水準の維持に努めている。地域コミュニティ活動を重視し地域への権限・財源の委譲を進める宗像市の方針とも軌を一にしており、地域の教育・文化の拠点として学校の果たす役割が期待される。現在の業務量やサービス水準を維持することを前提にバックアップ体制を構築している久留米市の場合、より効率的な体制づくりを目指すとともに、新たに「整備チーム」の計画も進展中である。詳細な業務内容の検討と合わせて、一層効率的な仕組みづくりが期待される。
 ただ、いずれの事例においても、行財政改革の流れの中でサービスを供給する側の論理で主導的に進められており、サービスを享受する側の視点が十分踏まえられていない点がこれからの課題として指摘できよう。サービスを受ける側の満足度を測る手立てとして学校長による評価は重要であろうが、更に今後は、教諭や児童・生徒を対象としたアンケート調査等によって満足度やニーズを定期的に測定すると同時に、柔軟なサービス体制の改善へと繋げていく体制づくりを検討すべきであろう。

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