大阪府では、危機的な財政状況を打開するための方法として抜本的な行政事務の改革を行うことで、組織のスリム化、低コスト化及び府民サービス部門への適正な人員配置を実現することとした。平成16年4月に開設された「大阪府総務サービスセンター」は、旧来の総務事務に情報技術(IT)化を取り入れ、個々の組織から総務事務処理を切り離す「シェアードサービス」を導入し、さらにその業務運用について詳細な業務改革を行った上でアウトソーシングを行うという、「大阪モデル」とも言うべき新しいビジネススキームに即し実現されたものである。
 

1. アウトソーシングに至った経緯

1−1.行政改革とIT活用

 大阪府では近年の厳しい財政状況のもと、平成9年度には「行政改革推進計画」において、民間への委託により業務の効率性の向上や高度で専門的なサービスの提供が期待できるものについては積極的に民間委託することとした。平成13年度には「行財政計画(案)」を策定し一般行政部門の職員数を3,000人削減することを目標としたが、一方で府民サービス水準の低下を招くことは許されないため、人的資源の最適配分を実現することを至上命題となった。。そして、組織の内部管理事務など府民サービスに直結しない部門について重点的にBPR(Business Process Reengineering)に取り組み、その資源を府民サービス部門に移転することとした。
 また、全国でも早い段階でシステム化した基幹業務部分について、各システム間の連携や保守維持経費等の問題により、ダウンサイジングを中心とした抜本的な取り組みを行う必要があった。このような中、大阪府では平成13年度に情報化基本計画である「e−ふちょうアクションプラン」を策定し、情報技術(IT)を用いた行政事務改革や府民サービス向上を打ち出し、組織の内部管理事務を効率化する上でITの威力を十分に発揮するとともに、PCやネットワーク等組織内の情報基盤整備も一気に推し進めることも併せて目的とした。

 

1−2.従来の総務事務フロー

 大阪府における従来の総務事務のフローは概ね事例図 7- 1のとおりである。
 総務事務は各組織単位で発生するもので、各部局の総務課や所属にも総務事務を処理する担当職員を配置してきた。このため、業務が属する所属の総務担当職員を経由して部局の総務課、さらには総務部へと重層的に処理が行われてきた。このことで、多数の職員の間を紙書類が移動し、各種の認定を受けるまでに長い時間を要することとなった。しかし何よりも、府民サービスに直結しない総務事務処理に多数の人的パワーを費やすこととなったということが課題となった。

事例図 7- 1 従来の事務処理フローのイメージ

1−3.シェアードサービスの導入

 大阪府組織においては、先に述べたような課題を克服するため、組織の改革とIT化を図り、抜本的な改革にチャレンジする視点から、行政版シェアードサービスの適用とPPP(Private Public Partnership)の実現の検討がなされた。すなわち、職員は各自が手続きの発生時にパソコンを利用して、システムにデータを入力する(発生源入力)ことになる。このとき、権限を各所属に移譲するとともに、一方で、各部局の総務担当及び総務部局が分散して行っていた総務事務を集中してセンター(大阪府総務サービスセンター)で一括処理することとした。
 また、職員の相談窓口となるコールセンターや経営管理を含め専門性を要する様々な業務は包括的に民間企業にアウトソーシングすることとした。基本的なイメージは図の通りである。ここでは、シェアードサービスセンターの業務を全てアウトソーシングされたたわけではないという点に注意が必要である。総務事務のうち、認定事務等については権限(公権力)の問題などから外部委託はされなかった。大阪府は委託に馴染まないこれらの業務について、意思決定機能及び処理機能を保有することとしている。

大阪府の総務事務改革コンセプト
事例図 7- 2 行政版シェアード
サービスのイメージ
*シェアードサービスとは
 総務事務の改革手法として、特に大手民間企業においてはシェアードサービス(Shared Service)の考え方が広まりつつある。分社化により生じる意思決定の遅延、責任所在の不明確化などの問題を解消するため、事務処理フローを改革して流れを1箇所に集中させ、スケールメリットと専門性を生かしてコストの削減を図るものである。このことにより、職員へのサービスレベルが向上するとともに、企業本来のコア業務に多くのパワーを集約させることができる。
 シェアードサービスは、「複数の組織で実施している間接業務を、ITを活用することで集約して組織化(シェアードサービスセンター)し、独立採算により業務改革を進め、組織のスリム化と高サービス提供を目指す手法」と定義できる。さらにセンターはプロフィットセンターとして独立性を持たせることができ、顧客の視点でのサービス向上、利潤創造の取り組みの中から、より高い効果を生み出すことが期待されるものである。
 このように、シェアードサービスについては、企業では大規模な業務の標準化と情報システム投資を行う必要があるが、長期的な視点からは組織のスリム化により投資を上回る効果が得られるものと期待されている。

1−4.先進的な調達手法(4つの包括)

 システム開発の委託にあたっては、システム新調による効果を最大限に発揮するため、人事給与、財務会計、物品調達の基幹システムを一括して抜本的に再構築している。これを「第1の包括」と呼んでいる。次に、システム化の効果を最大限に発揮するため、本庁知事部局だけでなく、出先や府立学校も含めて、サービス提供の対象およびシステムの範囲としている。これが「第2の包括」である(事例表 7- 1参照)。さらに従来の情報システム調達のように機器・ソフトを購入するだけにとどまらず、コールセンターでのサービス提供機能をもシステム開発と合わせて一体的に整備することとしている。これが「第3の包括」である。最後に、ワンショットの情報システム調達ではなく数年間のライフサイクルを考慮し、トータルでコスト管理する方法を採用した。「第4の包括」であるが、実際には開発2年間に保守・運用の5年間を含めた7年間を包括的に業務委託している(7年間の債務負担行為を設定)。全体の総事業費は、7年間合計で約35億円となった。内訳は以下の事例表 7- 3のとおりである。

事例表 7- 1 サービス対象者の範囲
部門 対象職員数
知事部局・行政委員会(教育委員会を除く) 約10,000人
企業会計(水道部・企業局・市場) 約700人
府立5病院等 ※病院事務局が入力 約3,600人
府立3大学 ※大学事務局が入力 約1,200人
教育委員会 約700人
府立学校(高等学校等、約180校) 約15,000人
市町村立学校(小中学校等)の業務の一部 ※府教委が入力 約40,000人
事例表 7- 2 包括委託した業務一覧
項目 おもな業務
システム開発および保守・運用 基幹システム構築、システム導入作業(環境設定、データ移行、研修)、システム保守・運用(オペレーティング)
直接サービス ポータルサイトの整備・運営、WEBコンテンツの整備・更新、コールセンターの整備・運営
システム運営に関連するサービス業務 納入通知書・督促状の発送、用品管理倉庫(POSシステム)の運営管理
経営管理業務 各種指標の設定と年間改善計画の策定、実績の分析・報告、業務改革の検討、府への提案
事例表 7- 3 包括委託した業務及び委託金額一覧
項目 金額
包括的業務委託費 システム開発費 約12億5,000万円
システム保守費 約3億円
システム運用費 約2億円
直接サービス整備費 約5,000万円
直接サービス運営費 約6億円
その他 府立学校へのサービス拡張分 約4億円
サーバ等機器調達費 約7億円
合計(7年間ライフサイクルコスト) 約35億円

 また、包括業務委託にあたっては、総合評価一般競争入札方式が採用された。入札価格及び提案内容の総合評価の結果、事業者としては松下電器産業株式会社を代表とする富士通株式会社、西日本電信電話株式会社の企業連合が採択された。

1−5.委託事業の内容

 大阪府総務サービスセンターの大まかな業務の流れは以下の事例図 7- 3の通りである。
 例えば、扶養手当などの人事・給与・福利厚生の申請について、職員はそれぞれのPC端末より総務事務システムにアクセスし、必要事項を入力する(発生源入力)。データは各課総務担当や総務部を経由せずに直接総務サービスセンターに送られ、センターのバックオフィス部門が必要な認定を行う。その際、センターバックオフィス部門は必要に応じ人事室等と連携を行う。また、総務事務システムでは、異動や転居・出産など、生涯において数度しか行わない手続きについては、ナビゲーション画面を整備し、手続や決裁の流れが理解しやすくする試みを行っている。
 それでも職員が操作が分からない場合、フェイス・ツー・フェイスの問合せ窓口として、民間事業者への委託業務の主要部分であるコールセンターが一括して対応することとしている。受付に際しては電話だけでなくFAX及びパソコン(質問箱へのメール投稿)によってもアクセス可能としている。職員からの質問に対しては、一般オペレータにより回答できない質問については、まず、フロントオフィス内で、オペレータを統括するスーパーバイザへと引継ぎ、検討を加える。それでも回答が難しいもの(行政事務の詳細など)については、バックオフィス部門に転送(エスカレーション)され、職員へ回答されることとなっている。

事例図 7- 3 大阪府サービスセンターのサービスイメージ

 前述したが、総務サービスセンター業務のうち、民間事業者にアウトソースしたのはいわゆるフロントオフィス部分のみである。バックオフィス部門では申請に対する認定手続等を行う必要があるため、府組織自身が処理する形態が採用されている。フロントオフィス部門については、コールセンターのオペレータ、経営管理担当、ポータル管理担当を含め、最大で約40名の体制で業務を行うこととなっている。

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