大阪府では、危機的な財政状況を打開するための方法として抜本的な行政事務の改革を行うことで、組織のスリム化、低コスト化及び府民サービス部門への適正な人員配置を実現することとした。平成16年4月に開設された「大阪府総務サービスセンター」は、旧来の総務事務に情報技術(IT)化を取り入れ、個々の組織から総務事務処理を切り離す「シェアードサービス」を導入し、さらにその業務運用について詳細な業務改革を行った上でアウトソーシングを行うという、「大阪モデル」とも言うべき新しいビジネススキームに即し実現されたものである。
 

2. 効果検証

 大阪府総務サービスセンターの取り組みが、業務及び組織のリエンジニアリングの視点からスタートしたものであることは前述の通りである。処理権限の集中と分散により、各部局に分散して配置されていた総務業務担当の中間職員(約400名)を削減することができた点で効果があったとされている。このことは、一般に言われるように行政職員が「1,000万円プレイヤー」であるとすると、単純に年間40億円の経費削減効果が生じることとなる。プロジェクト経費総額が7年間のライフサイクルコストで総額35億円であることを考えた場合、大きな投資効果が得られたことになる。削減部分の人的パワーは各部局の直接の府民サービス部門やコア業務に配置転換され、最終的には府民サービスの向上へと振り向けることができる。

事例表 7- 4 中間職員の概算削減数
所属 削減数
部局総務課 △約60人
所属(本庁各室課) △約40人
所属(出先) △約100人
教育委員会関係(府立学校等) △約200人

 さらに、総務業務の改革に伴って抜本的な組織改革を実施した結果、明確な権限により事務処理におけるミス軽減効果も得られたとしている。文書管理システムとの連携により保存文書データの参照も容易となるなど、申請者が自己責任のもとで情報入力できるよう様々な工夫がされている。

事例表 7- 5 コールセンターにおけるSLA項目数値の推移
  4月 5月 6月 7月 8月 9月
設定時間内応答率 17% 31% 58% 85% 96% 99%
一線完結率 51% 61% 70% 78% 78% 79%

3. 利用者の反応

 本事業の場合、直接的な利用者は府職員となる。平成16年4月のサービス開始直後はシステムへのアクセスが集中し、システムへの職員のアクセスが一時できなくなる事態が生じた。また、コールセンターにおいても、操作やワークフローに対する問合せ、さらにはシステム不調に伴う苦情などが殺到し(1日の着信が8,000件近くにのぼる)、電話が取れない事態となった。
 コールセンターへの問合せの大半が操作に関するものであるということ、またエスカレーションの率が10%程度に抑えられていたということから、まずはコールセンターへの質問件数そのものを軽減させる取り組みが必要であると考えられ、対策としてポータルでのコンテンツ充実及び再度の操作研修の実施がされた。特に前者については、問合せ履歴(ログ)の詳細な解析からFAQ(Frequently Asked Questions、よくある質問と回答)の充実が図られた。
 これらのことにより、平成17年2月現在ではコールセンターへの問合せも落ち着き、1日約400件程度となっている。また、後述するSLA(Service Level Agreement)項目にも設定されている設定時間内応答率、一線完結率もともに飛躍的に向上している。
 総務サービスセンターでは、10月下旬から11月中旬にSLAの対象となるトップページ(ポータルサイト)とコールセンターについて、職員を対象にWEBを活用し、利用者満足度アンケートを実施している。その内容はトップページについては全体的に満足度が低く、平均で50%弱の状況であり、特に「画面操作性」や「人給ナビの誘導」などの分かり易さの面で改善が必要と分析している。一方で、コールセンターについては、比較的好意的な回答率が高く出ている。ただし、「オペレーターの業務知識」や「トップページに記載された活用方法」などに改善すべき点が明らかになっている。
 府では、毎年、2回のアンケート調査を行い、職員の意見も踏まえながら、より一層の改善を図ることとしている。

4. アウトソーシングに向け新たな工夫

 前述のように、本プロジェクトでは7年間のライフサイクルを設定し、ハード整備からサービス提供に至るまで「4つの包括」の考え方に即した調達を行い、業務委託を行っている。この業務委託の水準を確保するため、事業者が提供するサービスについて総合的な品質保証協定(SLA、Service Level Agreement)を締結し、サービス性能の恒久的維持を図る取り組みがなされている。さらにその品質をモニタリングする手法として、SLAとの相関が高い「顧客(=職員)満足度」や「手続申請ミス発生率」、それに「一線完結率」などを主要業績評価指標(KPI、Key Performance Indicator)として設定している。。
 また、長期のコールセンター運営やシステム運用に対する委託費支払の考え方として、コール件数に応じた従量制ではなく、業績をもとに支払額を決定する業績連動払いを導入している点も特徴的である。サービス品質に関するデータからSLA達成度を計数算定し、成果(業績)が府の要求する水準に達しない場合には一定減額することとしている。例えば直接サービス運営費の70%を固定費とし、残りの30%を業績に連動させることとしている。一方で、コールセンターへのノウハウ移転や事業者からの事務改善提案等によりバックオフィス部分のスリム化が進んだ場合には、人件費削減など府の負担コストの範囲内で「ボーナス」を支払うことにもなっている。

5. 今後の展望

 総務サービスセンターは、今後とも、職員からの意見を踏まえ、システムの一層の改善を図るとともに、ポータルサイトやコールセンターの一層の充実に努め、さらに効率的な運用体制を確立していくこととしている。
 また、府の業務であるバックオフィス部門の事務についても、マニュアル化や標準化をさらに強力に進め、スリム化やコスト削減に努めるとしている。これには企業連合のノウハウからABCやABMといった内部生産性評価の方法を取り入れ、可能な範囲でアウトソーサの処理範囲拡大にも取り組むこととしている。ただしその場合にはさらなる制度改革や運用・業務改革が必要となることはは言うまでもない。
 さらに、総務サービスセンターの将来的な目標としては、センター自身の経営管理能力を高め、外部市場でも太刀打ちできる競争力をつけること、すなわち「プロフィットセンター化」への取り組みを進めることとしている。事業内容の拡大と合わせ、小中学校や他団体へのサービス提供といった事業範囲の拡大にも取り組んでいきたいとしている。
 大阪府総務サービスセンターの取り組みは、自治体と民間事業者との間の役割分担を明確にし、シェアードサービスの考え方をはじめとして各種の先進的な手法を取り入れたアウトソーシング事例であると言える。民間事業者が自身のノウハウを最大限活用して提供するサービスを自治体が業績に応じて購入するモデルとして、今後の電子自治体分野や行政改革分野での各地の取り組みの際、有効な参考事例になると思われる。

※なお大阪府総務サービスセンターの取り組み経緯をとりまとめた「官民協働によるシェアードサービス/大阪府庁の総務事務改革」が書籍として出版された(大阪府総務サービスセンター編、平成16年12月)。事業内容や開設までの検討経緯、苦労話などが詳細に記載されている。

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