京都府町村会では、府内町村の事務系情報システムの導入・運用コストの削減、町村間での情報格差の是正を図るため、平成10〜11年に総合行政情報システム「TRY-X」を共同開発。導入・運用コスト削減という直接的成果を上げるとともに、導入自治体間で業務ノウハウの共有や業務の質の向上が図られるなど副次的な効果もみられる。また、市町村合併において関係町が既にTRY-Xを導入していたため、システム統合がスムーズに進んだ例もある。さらに、現在、府が進める「行財政連携推進会議」において、市町村の基幹業務システム共同化の中で、TRY-Xが注目されている。
 

1. 京都府町村会による総合行政情報システム「TRY-X」開発の経緯

1−1.行政業務の電子化と「TRY-X」開発の背景

 急速な情報技術の革新、国の電子自治体推進の動きの中で、地方自治体でも行政業務の電子化やアウトソーシングの取り組みが急速に進められている。住民に対するより質の高いサービスの提供とともに、行政においては、効率的な業務の推進、人員や業務コストの削減効果などが期待されている。そのため、行政業務の電子化を行政改革の一環として位置づけ、積極的な取り組みを推進している自治体は少なくない。
 他方、導入するシステムに目を向けると、ベンダーが提供するパッケージシステムをそのまま導入し、システムのメニュー、業務フロー、システムの操作手順、保守管理の体制など、ベンダーの提案を現場職員がそのまま受け入れざるを得ないといった実態もみられる。また、システム導入・運用コストが妥当であるかどうか評価が困難であることも課題とされている。
 こうした状況のもと、京都府内の町村で構成する「京都府町村会」(以下、「町村会」)においては、町村の情報化推進支援事業の一環として、共同利用できる総合行政情報システム「TRY-X」を開発し、平成11年から提供している。
 本報告は、このTRY-Xの開発に至る経緯とその概要について紹介するとともに、導入自治体の1つである船井郡園部町の行政改革の視点に立った取り組み状況とその成果などを概観する。

1−2.「TRY-X」の共同開発の経緯

 行政業務の電子化が進む中で、町村会では、平成8年頃より町村会長を務める園部町長をはじめとする町村長から、行政情報システム導入・運用コストの高さ、同じ定型業務でありながら各自治体が独自にシステムを構築することに疑問を感じるなどといった議論がなされていた。町村会では「情報システム構築に係る人材・財源・ノウハウ不足」、「個別導入による町村間の連携の希薄さ」、「ベンダー依存」、「急速な技術革新への追随が困難」という各町村が共通して抱える情報化推進に関する課題に対応するため、(1)町村主導の情報化の推進、(2)町村の人材・知識の共有・活用、(3)情報処理技術の集積と活用を図ることを目的として、平成9年9月に「京都府町村会情報化推進室(通称:京都府町村会情報センター)」(以下、「情報センター」)を町村会内に設置し、(1)総合行政システムの共同開発・導入支援、(2)総合行政情報システムの共同利用・運用支援などの事業の取り組みを開始した。情報センターは、いわば「町村の、町村による、町村のための情報化推進事業」推進の中心的役割を担うものと位置付けられている。
 総合行政情報システム「TRY-X」は、情報センター事業を推進する上での中核的なシステムとして開発されたものであり、標準化・共通化による情報システム導入・運用コストの削減、町村間の情報格差の是正を目的として、府内町村が共同利用できるシステムとなっている。
 京都府町村会が町村の具体業務にまで関わるのは本事業が初めてとのことである。また、他府県の町村会による同種の事業は、北海道、鹿児島県、熊本県などで取り組みがあるが、全国的には珍しいという。なお、鹿児島県、熊本県では京都府町村会と提携してTRY-Xを導入しており、府県を越えた取り組みということができる。

2. システムの概要

2−1.システムの構成

 TRY-Xが提供しているシステムは、次の19項目であり、日常的な行政業務の多くを網羅している。また、法制度の改正等に対応しながら、逐次増強が図られてきている。
 システムの特徴としては、急速な情報技術の革新に伴うパソコンの性能向上や低価格化、表計算やワープロ・データベースソフトの普及を通じた1人1台の事務処理環境が主流となっている中で、汎用機やオフコン型の従来システムをそのままオープン系システムに移行するのではなく、今日的な情報活用の観点から事務処理やシステム処理方法そのものの見直しが図られている。

事例表 6- 1 TRY-Xが提供するシステム
  1. 住民記録システム(住基ネットワーク)
  2. 選挙システム
  3. 印鑑登録システム
  4. 住登外・宛名管理システム
  5. 国民健康保険(資格管理・税(料))システム
  6. 国民年金システム
  7. 住民税システム
  8. 固定資産税・都市計画税システム(固定GIS)
  9. 軽自動車税システム
  10. 収納消込システム
  11. 滞納管理システム
  12. 老人保健システム
  13. 医療給付システム
  14. 児童手当システム
  15. 保育所・幼稚園料システム
  16. 上下水道料金システム
  17. 総合窓口支援システム
  18. 外国人登録システム
  19. 介護保険事務処理システム(OP)

事例図 6- 1 TRY-Xの課税台帳画面(左)及び住民基本台帳画面(右)

2−2.システムの開発・導入

 TRY-Xの開発は、平成10〜11年の2年にわたり、町村会から情報システム系民間企業(2社)への委託により行われた。開発にあたっては、従来の情報システム導入において問題視されていたベンダー任せの開発ではなく、開発段階から行政事務の経験豊富な町村職員が参画して行われている。情報センター、各町村実務担当職員、民間企業の3者が連携し、実務現場での事務処理・運用から発想しながら、法制度等に準拠した業務の共通化・標準化を行ない、それに即してシステムの設計を行っている。
 TRY-Xの導入状況は、府下町村のうち、平成11年に4自治体、12年に2自治体、13年に13自治体、合計19自治体(平成16年4月1日に峰山・大宮・網野・丹後・弥栄・久美浜の6町が合併し京丹後市へ移行。平成16年4月1日現在、14自治体)となっている。特に、平成13年には、住基ネット導入の流れや各自治体のシステム更新時期が重なったことなどを背景として、町村会によるシステムのPRの取り組みが功を奏し、導入が大幅に進んだ。

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