京都府町村会では、府内町村の事務系情報システムの導入・運用コストの削減、町村間での情報格差の是正を図るため、平成10〜11年に総合行政情報システム「TRY-X」を共同開発。導入・運用コスト削減という直接的成果を上げるとともに、導入自治体間で業務ノウハウの共有や業務の質の向上が図られるなど副次的な効果もみられる。また、市町村合併において関係町が既にTRY-Xを導入していたため、システム統合がスムーズに進んだ例もある。さらに、現在、府が進める「行財政連携推進会議」において、市町村の基幹業務システム共同化の中で、TRY-Xが注目されている。
 

3. 共同開発・共同アウトソーシングの効果

3−1.コストダウン

 TRY-Xの開発費用は総額約5億円で、全額府内32町村(開発当時)で負担しているため、通常の導入コストと比較すればかなり安価な負担と考えられる。年間のシステムサポートの経費は、1自治体165万円となっている。導入自治体が増えれば増えるほど1自治体あたりの運用コストも抑えられるということになる。
 また、TRY-Xは、システムの共通化・標準化を維持する目的から、個別の自治体の要望に応じた改修(カスタマイズ)を行わないことが大きな特徴である。改修が必要な際には、導入自治体が参加する部会において改修の是非を含めた改修の仕様に関する検討がなされ、導入自治体すべての合意が得られたものだけを改修することとされている。これにより、導入後のシステム改修が的確となり、かつ改修に係るコスト低減を実現している。
 通常、ベンダーから提供されるシステムの場合には、職員からの修正要望などに基づいて自由かつ気軽にカスタマイズが行われることが多く、また、操作方法に関するアドバイスなどもベンダーのシステム提供サービスの中に含まれるものがほとんどであるため、それぞれについてもコストが発生する。共同利用により、その部分も大きく圧縮されることとなる。
実際の町村における導入前後の運用コスト比較については、行政業務の情報化の分野が拡大している中で、単純な比較は難しい面があるが、平成11年に導入した園部町の例で見ると、TRY-X導入前の汎用機システムでは、平成7〜11年度の運用コストは平均約2,600万円(デジタル回線利用料、機器保守料、セットアップ・プログラム変更料、機器リース料、プログラム使用料の合計)であったのに対し、導入後の平成13〜16年度にはTRY-Xにかかる運用コストは約960万円(保守用回線使用料、機器保守料、パソコンリース料、システムサポート負担金、システム機能改善負担金)と、三分の一程度にまで減少している。ただし、近年、インターネット回線使用料、LGWAN回線使用料、新たな情報機器購入、GISの導入など、新たな情報化のコストが発生・拡大しており、それらを含めると、行政情報システムの総コストは大きく減少しているわけではない。

3−2.ノウハウ共有を通じた行政業務の水準向上

 共同開発・共同利用のもう一つの効果としては、導入自治体間でのシステム利用のスキルや業務に関するスキルの共有を通じた行政事務の水準向上があげられる。例えば、法改正等に伴うシステムの改修をめぐって、部会での検討を通じて事務処理の考え方や技術的な方法に関する各自治体の理解の共通化がうながされ、このことが事務のブレや無駄の排除に大きく貢献し、定型的な行政業務の水準向上に役立っている。
 また、TRY-Xの操作や法解釈等について、情報センターによるサポートだけでなく、自治体間でアドバイスしあうなど、ヨコのつながりが強まっており、このことが結果としてサポート費用を抑えるという副産物も生み出している。

3−3.市町村合併におけるスムーズなシステム移行

 平成16年4月に発足した京丹後市では、合併前に既にすべての町がTRY-Xを導入済であったことから、業務フローのすり合わせを含めた行政情報システムの統合はスムーズに行うことができた。定型的業務の標準化・共通化が、市町村合併にも効果を発揮したということができる。なお、合併に対応して、新たに旧町間の不均一課税や本庁−支所対応などの機能を持つ合併対応版TRY-Xシステムも開発された。
 また、残る合併協議会でもTRY-Xの導入が予定もしくは検討されている。

4. 住民の反応

 住民サービスの点では、直接的には、窓口におけるデータ検索時間の短縮により待ち時間の短縮が図られているという。なお、窓口対応全体で見ると、システムの効果はあくまでも窓口機能の一部であり、実際には来訪者をたらいまわしにしないことや、トラブルへの対応等が満足度の向上にとって重要と指摘されている。そのため、例えば園部町では総合窓口を設置して行政業務を幅広く理解した中堅職員を配置するなど、きめ細かなサービスの仕組みを合わせて用いている。

5. 行政情報システム共同利用の問題点と改善方法

 共同事業としてのTRY-Xによるコスト削減の効果は、開発当初からある程度明らかであったが、これを通じた行政改革全体の推進の視点までは意識されていなかったという。しかし、地方自治体の厳しい財政状況とそれに伴う効率的で簡素な行政運営が求められる今日、町村会としても行政改革と結びつけた視点を意識するようになってきている。
 平成11年にTRY-Xを導入した園部町では、平成12年に「行政情報化推進本部」を設置し、庁内情報化の総合的な推進に取り組んできたが、平成15年3月には、「園部町新行政改革大綱」を定め、「住民の利便性の向上や事務処理手続きの迅速化を図るためのITの有効活用をはじめとする事務処理の簡素効率化」、「TRY-Xの活用による総合的な収納の把握・整理を進め各課の収納業務の連携及びサービス管理の一元化」など、行政改革の中で情報化の取り組みのあり方を明確に示しており、現在その観点からこれまでの取り組みの評価が進められている。
 単一機能のアウトソーシングと異なり、行政情報システムは多様な分野の住民サービスに関わるだけに、コスト評価はもとより、サービスの総合的な向上の観点からの的確な評価に基づいてシステムの改善・充実を図っていくことが必要である。また、前述した共同利用を通じた職員のスキルアップによるサービスの質の確保といった視点も重要と考えられる。

6. 今後の展望

 本事例は、町村会を通じた行政情報システムの共同開発・共同利用という全国でもユニークな事業であるが、市町村合併の中で、町村会の構成町村数が減少するという問題に直面しており、共同事業としての自立性の確保が重要となっている。前述した京丹後市での導入は、「町村」の枠を越えた事業の拡大としても位置付けられており、今後も加盟自治体の拡大が求められている。さらに、事業の自立性を高める方向で、平成17年4月には町村会から情報センター機能を分離・独立させる予定となっている。
 また、京都府では、平成16年6月から「行財政連携推進会議」を立ち上げ、行政共同化について検討を進めている。その中で、行政情報システムの共通ソフトの開発や共同運用を打ち出しており、府下で既に蓄積のあるTRY-Xの活用が期待されている。
 今後、行政情報システムは、共同データセンターを備えたネットワーク型システムへの移行が進んでいくと考えられるが、前述したようにベンダー任せでない、ノウハウ共有に向けた「共同」の仕組みは、自治体における行政業務の水準向上の観点からも、先進的な取り組みとして継続していくことが必要と考えられる。

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