温泉観光の低迷により、北陸有数の温泉地「山代温泉」を抱える加賀市では、旅館の移転・廃業が続いていた。中心市街地の空洞化、賑わい喪失を危惧した市は、旅館跡地を買い取り、交流拠点施設を建設した。施設の運営管理はNPO組織「はづちを」に委託した結果、年間700万円のコスト削減が図られ、日帰り観光客数の下げ止まり効果も見受けられた。地域の有志により運営組織として設立されたNPOと自治体が、上手く協働している事例であり、全国的に同様な施設の指定管理者制度への移行が増えていくと思われ、大いに参考となる一例である。
 

3. 住民の反応

 一人暮らしのお年寄りや夫婦のみの家庭で偏食しがちなことや親が温泉街勤めのために生活が不規則になりがちな家庭では朝食抜きになる子供が多い、という地域事情がある。そこで、地域貢献とコミュニティビジネスの両立を目的に「朝食サービス」を平成15年3月から開始している。登録者は平成16年11月現在、65歳以上が30人と子供1人である。
 利用者からは「地元の港で魚料理店を営む水産会社が作った干し魚など地物の食材を使っていて、新鮮でおいしい」と評判が良く、一人で来店するお年寄りからも「従業員や馴染みのお客との会話が楽しみ」という声が聞こえてくる。また、朝食を手伝う地元のシニアボランティアの女性からは「やりがいがあり、接客していて元気になる。」「痴呆が進まない」と、利用者や福祉関係者からの評判は良い。ちなみに、1食500円で、65歳以上と中学3年生までの子供は、年会費2,000円の「朝食クラブ会員」になると1食250円となる。不規則な食環境にある児童には市から半額補助制度がある。

事例図 4- 6 「朝食サービス」の風景

4. 賑わい交流施設をアウトソーシングする上での問題点と改善方法

4−1.管理運営組織の選定について

 「はづちを楽堂」は高齢者のいきがい活動の支援を目的としたコミュニティ・レストラン(R)や各種サークル教室の開催、地域のまちづくり活動といった公共性の高い事業だけでなく、飲食・物販などの営利事業も求められている。
 町会や公民館といった地縁自治組織は、市民ニーズをうまく吸い上げ、また地域からの協力を得ながらの活動は比較的行われやすく、ボランティア参加などによる大幅なコスト削減も期待される。しかし、販売力や企画力といった営業面は劣る上に、役員が定期的に交代するような場合もあるため、継続的なサービス提供の維持は難しい。
 一方、管理運営主体が民間企業となった場合、収益性を高めるために公共性の確保が難しく、地域の協力もあまり期待できない。民間企業への施設貸与や事務委託など、手法は様々考えられ、入札等によるコスト削減効果は期待できるが、その効果もあくまで一時的なものであり、事業からの撤退や企業の交代などにより、継続的なサービスの提供が難しくなる懸念がある。
 以上のような問題点が想定される中、「はづちを楽堂」のケースでは、地域の有志を人材として確保し、営利活動を担えるような組織としてのNPO設立にこぎつけることができたため、公共的な地域サービスを行いながら、組織を維持するための収益事業も同時に行えている点が特徴である。

4−2.指定管理者制度への移行について

 指定管理者制度へ移行する際には、経費の縮減が目的の一つとなることが想定される。その場合、公的助成金の縮小による収益の悪化が懸念され、事業継続のためには、売上の拡大や会費・寄付等を増やすことが必要となる。当然、経費縮減をしない場合でも、給料手当の増加により、職場の魅力を高めて有能な人材を確保していくためにも必要ではある。
 売上高の増加は、組織運営を安定化させることで、まちづくりや様々な交流活動などに多くの投資を可能とするため必要なことであり、収益性の高い事業の開拓は必要であるが、一朝一夕に進むことは難しいと考えられる。当該施設での賑わいや交流活動は、少なからず地域へ経済波及効果をもたらしており、効果の一部還元として地域が一層の費用面で支援することが重要であり、その相乗効果が地域の魅力を一層高めていくものと考えられる。
 公的助成金はできる限り縮小されるに越したことはないが、「行政の単なる安い下請け」ではなく、運営管理組織が自立的にサービスを維持・更新できる体制になるまでの期間は必要不可欠であると考えられる。公的助成金は、所与の目的達成に必要な経費であるとの共通認識に立ち、金額や期間、役割分担等について協議し合意しながら協働を進める取り組みと仕組みは今後もより成熟させる必要がある。またそれに加え、今後は、市民に対して適宜、十分な説明を行っていくことが望まれる。

事例図 4- 7 予算と可能サービスの仮説
事例図4-7 予算と可能サービスの仮説

5. 今後の展望

 全国には、「はづちを楽堂」のような観光・交流のための施設を直営、または外郭団体等により運営している自治体が多数存在するが、順次、指定管理者制度への移行が進められていく中で、管理運営主体の選定問題が少なからず発生するものと考えられ、管理運営のための組織としてNPOを設立した「はづちを楽堂」の事例は、一つのモデルとして参考になるものと考えられる。
 最後に、加賀市は「はづちを楽堂」以外にも、市有施設の運営を民間との様々な「協働」事業として実践している。これらのいい面、悪い面などの比較を通し、アウトソーシングのあり方の理解を深めることも重要であると考えられる。

  • 廃校となった小学校校舎を1億5千万円かけて改装し、グリーンツーリズム旅行企画や物販を行うNPO「竹の浦夢創塾」に、年間経費約1200万円の約1/2を委託
  • 国民宿舎「片野荘」を一般財産化して、旅館の経営を手がけている民間企業の葛g水に施設を有償で貸与し、独立採算を原則に施設運営費用の負担は行わない
  • 石川県九谷焼美術館の喫茶店運営などをNPO「さろんど九谷」に業務委託している。喫茶店と付属ギャラリーのおかげで、順調に収益を上げている


(注)「コミュニティ・レストラン(R)」は、特定非営利活動法人NPO研修・情報センターの登録商標です。

(参考)非営利活動市民団体「はづちを」ホームページ

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