温泉観光の低迷により、北陸有数の温泉地「山代温泉」を抱える加賀市では、旅館の移転・廃業が続いていた。中心市街地の空洞化、賑わい喪失を危惧した市は、旅館跡地を買い取り、交流拠点施設を建設した。施設の運営管理はNPO組織「はづちを」に委託した結果、年間700万円のコスト削減が図られ、日帰り観光客数の下げ止まり効果も見受けられた。地域の有志により運営組織として設立されたNPOと自治体が、上手く協働している事例であり、全国的に同様な施設の指定管理者制度への移行が増えていくと思われ、大いに参考となる一例である。
 

1.  アウトソーシングに至った経緯

1−1.施設が立地する加賀市の概況

 加賀市は石川県南端、福井県との県境に位置し、北は日本海、南はあわら市(福井県)に接する人口約6万7千人の城下町であり、千古の由来を誇る温泉などの天恵の自然環境と、温暖で四季の変化に富んだ自然条件のもとに立地している。
 政府登録ホテル旅館数(10万人あたり)が全国2位を誇る石川県内にあって、山代温泉、片山津温泉を有する加賀市の登録数は群を抜いている。当該施設が立地する山代温泉は、約1300年前、修行のため霊峰白山に向かった僧・行基が、一羽の傷ついたカラスが温泉の湯で傷を癒していたところを発見されたのが、起源とされている。また九谷焼、山中漆器が加賀市の特産物として、全国的に知られている。

はづちを楽堂写真1 はづちを楽堂写真2

1−2. 温泉観光の低迷

 山代温泉の観光入込み客数は、昭和61年に年間185万人であったものが、平成15年には約4割減の109万人にまで落ち込んでいる。その結果、加賀市の主力産業である「旅館・その他の宿泊所」業は、ピーク時に比べて、事業所数では4割減、従業者数では半数以下にまで落ち込んでしまっている。往時は、団体客を旅館内に囲い込む戦略を中心に発展してきたが、今後は、日帰りや個人客への対応、県内利用者の取り込みが重要となってきた。

事例図 4- 1
山代温泉の観光客数の推移
事例図4-1 山代温泉の観光客数の推移

事例図 4- 2
旅館・宿泊所の事業所数・従業者数
事例図4-2 旅館・宿泊所の事業所数・従業者数

1−3. 交流施設「はづちを楽堂」の建設

 山代温泉の共同浴場である総湯界わいの地区では、かつて18軒あった旅館が、移転や廃業によって5軒まで減った。中心市街地の空洞化、賑わい喪失を危惧した加賀市長は、平成13年2月末に観光協会や商店街、まちづくり協議会、区町会、青年団など地域の有志に呼びかけ、「山代温泉活性化検討委員会」を立上げ、旅館跡地に“いやしのゾーン”と“もてなしのゾーン”を核とする施設整備の方針検討を依頼した。
 「山代温泉活性化検討委員会」を中心に検討が進められ、平成14年3月には、跡地を買い取った市が2億3700万円をかけ、3棟の紅殻格子の木造建築から構成される、高齢者いきがい交流プラザ「はづちを楽堂」を建設し、平成14年6月にオープンした。

1−4.運営団体の「はづちを」誕生

 管理・運営については、市が「民に任せた方が地元のニーズに応えやすく、コスト面でも効率的」という理由で、既存の民間団体・組織の中から引き受け手を探したが、施設の性格上、商業利用が制限されることや継続的な管理運営が求められることから、引き受け手は現れなかった。

事例図 4- 3 「はづちを楽堂」正面入口写真
事例図4-3 はづちを楽堂正面入り口写真
同・施設配置図
施設配置図

 「山代温泉活性化検討委員会」メンバーのうち、このような状況を見かねた旅館、商店の若手経営者らが「まちの活性化につながれば」と引き受けることとなり、その管理運営組織として非営利活動市民団体「はづちを」が平成13年12月に設立された。「はづちを」の名は、総合芸術家で狂言師の故野村万之丞氏が命名した、地元の服部神社に祭られる機織りの神、天羽槌雄(あめのはづちを)神に由来する。平成16年4月現在、正会員22名、賛助会員17団体26個人、ボランティア会員9名で構成されている。

 事業内容
1) 高齢者交流活動(PC教室、卓球大会、早朝太極拳etc)
2) 交流イベント(コンサート、朝市、身近な講師による各種教室や講演会)
3) 飲食・物販事業(甘味処“はづちを茶店”、土産店“丹塗り屋”運営)
4) ギャラリー(生き甲斐発表展、地域の文化歴史展、各種企画展)
5) インフォメーション(山代地区/月広報発行) など

2. 効果検証

2−1.施設運営コストの抑制

 「はづちを」の財源は事業による収益、事業に伴い生じる公的助成金、会員の会費及び寄付金である。平成15年度の収支は、売上高1200万円に対し、280万円の経常利益が発生している(事例表4-1参照)。

事例表 4- 1 NPO法人「はづちを」の収支状況
  平成14年度 平成15年度
(1)売上高 9,390,045 11,821,299
(2)売上原価 3,799,868 4,656,607
(3)売上総利益=(1)-(2) 5,590,177 7,164,692
(4)販売・一般管理費
  (給料手当・雑給)
  (水道光熱費)
  (消耗品費)
  (修繕費)
  (リース料)
  (通信費)
13,982,780
(4,374,021)
(3,242,494)
(3,093,669)
(748,219)
(479,094)
(296,936)
14,280,649
(6,973,830)
(2,342,556)
(1,789,416)
(977,323)
(522,648)
(333,553)
(5)営業利益=(3)-(4) △8,392,603 △7,115,957
(6)営業外収益
  (公的助成金)
  (正会員会費)
  (賛助会員会費)
11,326,059
(8,730,000)
(1,460,000)
(609,000)
9,948,527
(7,853,367)
(1,380,000)
(272,000)
(7)経常利益 2,933,456 2,832,570

 この一因として人件費の低廉さが挙げられる。「はづちを楽堂」の常勤職員(有給)は男性1名、女性3名の計4名(事務局長1名、経理・労務・広報担当の事務員1名、茶店・物販担当2名)おり、給料は時給制の一律800円であり、延べ700万円と非常に低く抑えられている。
 加賀市直営での運営期間が全く無かったため、現実の人件費削減効果は計測できないが、仮に市役所職員が従事した場合、事務局長の年収を600万円、その他300万円とすると、人件費は計1500万円となり、これ以外は同じ条件とすると、年間約700万円の行政コストが削減され、公的助成金が800万円に抑えられていると言える。
 また、実際の人件費に経常利益を加えた約1000万円では、市役所職員4人の給与は支払えず、必要なスタッフの配置はままならず、事業が成り立たないことが一目瞭然である。

2−2.交流人口の増加

 NPOならでは柔軟な発想により、老若男女を問わず、住民や観光客がふれあえる様々な交流機会を提供しており、まちの回遊性向上や賑わい創出に貢献している。特に近年、減少著しかった日帰り観光客が、平成14年のオープン以降、下げ止まりとなった。
 交流人口の増加は、地域に賑わいをもたらすだけでなく、地産地消の取り組みは地域への経済波及も想定され、経済効果や雇用創出効果も期待できる。

事例図 4- 4 「はづちを楽堂」の催し(パンフレットより)
事例図 4- 4 「はづちを楽堂」の催し(パンフレットより)
事例図 4- 5 山代温泉の日帰り観光客数
事例図 4- 5 山代温泉の日帰り観光客数
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