協働によるまちづくりを掲げた公的施設管理の地域・民間委託の動きが高まっているなかで、高度化・多様化する住民ニーズに的確に対処できる専門的人材の配置が大きな課題となっている。とくに公民館では、行政コストの低減だけでなく、生涯学習とまちづくりの拠点としての多様なコーディネート能力を伴うことが不可欠である。そこで福島県会津坂下町では、地域のNPOに専門的人材の確保・配置を委託する工夫をもって、地域住民・NPO・行政の3者協働による地区公民館の地域自主運営を実現している。
 

2. 効果の検証

2−1.公民館費の大幅なコストダウン 

 平成16年度からのスタートだけにコスト的には予算段階での検証となるが、7つの自主公民館への850万円の事業費支出、NIVOへの1,750万円の事業委託の計2,600万円のアウトソーシングにより、職員人件費の大幅な圧縮が行われ、最低でも1,500万円のコストダウンが図られている。文化財保護や公民館の施設整備を含めた社会教育費の総額が2億円ほどであることを考えると、このコストダウンはかなり大きな額と見られる。

2−2.公民館の新しい役割として期待された効果とその検証

 町は自主公民館への切り替えにあたり5つの効果を期待した。検証を試みておこう。
(1)住みよい地域づくりのために、住民の要望に沿った各種事業(講座・講演会など)を自ら企画・運営に参画して、住民の生活・文化の向上を図る。
 → 公民館報によれば、各館でスポ・レク事業推進部会、文化・教養事業推進部会、青少年育成事業推進部会、家庭・生活関連事業推進部会などが組織され、競い合うように事業が進められている。ヒアリングによれば運営委員会主体になって参加者も明らかに増えているとのこと。目標は着実に達成されつつある。公民館報自体も「○○公民館だより」から住民公募による館報名に変えられている。例えば坂下公民館の場合は「いらっしゃい」を意味する「おあいなんしょ」が館報名となり親近感も高まっている。
(2)地域住民の総意によって、地域のために住民が自らの手により作り上げ、住民によって運営される社会教育施設としての公民館(住民自治の基礎)。
 → 企画・運営を主体的に進めるだけでなく、事業費自体を管理・支出することによって地域運営の自覚と責任感、「達成感」「やりがい」が高まっているとのこと。
(3)地域住民の親睦を図り、相互理解と地域連帯感や共同性を高め、地域のコミュニケーションを深める。
 → (1)(2)の結果でもあるが、とくに、公民館区と小学校区、自治会地区連合会の区割りが一致しているため、自主公民館は地域の繋がりを維持する力となりつつあり、各地区公民館開催のミニ文化祭は小学校との連携開催となっている。
(4)各地区公民館や関係機関・団体と連携しながら運営する。
 → 基礎となるNPO法人との協働、中央公民館の新たな役割の発揮、小学校との連携などが生まれ、地域住民、NPO、行政の3者協働が多様な形で実現されつつある。
(5)対象区域となる住民の主体性、管理・運営の自律性、事業活動の主体性を図られる。
 → 総じて、主体性・自立性は確実に高まりつつあると言ってよいだろう。

3. 住民の反応

 「2.効果の検証」で記したように地域住民の反応は非常によい。しかし一方で「張り切りすぎ」の感がないわけでもなく、なお暫くの試行錯誤が必要との意見が多い。

4. アウトソーシングの問題点と解決方法

 図式的には理想的な形と見られるが、3つの面で解決すべき課題が浮上している。
 第1の課題は、地域ごとの自主性と町としての普遍性をどう両立させるかである。そのため、自主公民館の連絡会や各館館長・運営委員長の合同会議が求められており、初年度から試行されている。すでに解決に向かっていると見られ、次の成果が期待される。
 第2の課題は評価で、事業のしっぱなしが現状との厳しい自己評価が出されている。その際「公民館の運営に関する基準」は事業評価基準になると見られ、コスト評価、町自身の「期待される効果」評価と合わせての政策評価が求められる。さらに、実績が芳しくなかったことから任意設置に変えられた段階で公民館運営審議会が廃止されたとのことであるが、公民館運営審議会による第三者評価などを再検討してもよいのではないか。
 第3の課題はNIVOの役割、位置づけの再評価である。ある意味では最も本質的な課題であるが、NIVO理事長へのヒアリングによれば、「自主公民館への支援、生涯学習推進員派遣は見切り発車の感を否めない。期待と仕事量の多さに戸惑っているのが現状。今年度は最初ということもあり昨年度に決められた事業をこなす形で、そこに地域住民の期待と意欲が重なって順調以上に進んでいるが、来年度以降の事業を計画し実施するのは大変なこと。とくに生涯学習推進員は良い意味で予想が違った。リタイアされた社会教育関係者が応募されると思っていたところが、若い人の応募が少なくなかった。契約は単年度だが、若い優秀な人々の働き先とすると、今後どう身分や働き甲斐を保証したらよいのか。自分達の力量を超えている。人材研修も大きな課題である」とのこと。NIVOと会津坂下町がどのような解決策を出していくのか。全国の公民館関係者が注目している課題である。

5. 今後の展望

 事業の自主的展開、行政コストの削減という点では、会津坂下町が踏み出した一歩は全国的な流れになる可能性が高い。その先には強力な住民自治が横たわっている。問題は、「4.アウトソーシングの問題点と解決方法」の最後に記した専門的人材を安定的に派遣できるための身分保証と研修をどう確保するかであり、試行錯誤を通して多くの人々が知恵を出し合いシステム化していく必要がある。そのためにも総合的な政策評価の導入や公民館運営審議会のような第三者評価機関の再確立が求められているように思われる。

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