横浜市のケアプラザは、地域福祉の拠点施設として(1)地域活動・交流(2)在宅介護支援センターにおける相談等(3)保健・福祉サービス(4)居宅介護支援を主要な事業として展開している。運営管理は市から委託された社会福祉法人が行い、(1)(2)は市からの委託金、(3)(4)は介護保険が運営資金源となっている。今後は指定管理者制度を導入し、社会福祉法人以外も運営管理が可能となる。平成15年度までに97カ所が開設済で、平成16年度に3カ所開設、最終的には1中学校区1施設の145カ所の開設が目標である。
 

1. アウトソーシングに至った経緯

1−1.横浜市都市経営の基本方針として

 横浜市のケアプラザ管理運営は、市が運営していたものをある時点からアウトソーシングするようになったものではなく、当初からアウトソーシングを前提として事業が進められてきた。これは住民に身近なところでのニーズへの対応や相談・サービスの調整という市の考え方によるものである。横浜市は福祉以外の施策でも、住民に身近なものは区レベルで実施する方向になっており、市民サービス向上のための区や局への分権が「都市経営の基本方針」でうたわれている。
 都市経営の基本方針にアウトソーシングという言葉が明示的に使われているわけではないが、保育所・市立病院・市立大学等の運営における民営化、民間委託が位置づけられており、財政の効率化や業務の改善を行っていく、あるいは市民との協働を進めていく、としており、アウトソーシングは今後の横浜市政の基本的な流れと見られる。
 また、これまでは社会福祉法人が運営管理をしてきたが、指定管理者制度の導入に伴い、今後は医療法人・NPO法人・社団法人・財団法人・農協・生協も管理運営が可能となる。株式会社等の営利法人はまだ対象とされていないが、平成18年度からは全てのケアプラザが指定管理者制度に移行する予定である。

ケアプラザ写真1 ケアプラザ写真2

1−2.地域ケアプラザ開設・運営の歩み

 横浜市で「地域福祉拠点」施設が構想されたのは平成元年3月に遡る。地域福祉システム研究調査が実施され、その報告書の中で(1)「ニーズの発見」より「身近な連絡窓口」(2)相談・調整「身近な相談相手」(3)サービスの提供という3つの考え方が示された。
 これを受けて平成3年7月には、地域ケアシステム基本指針が策定された。高齢者、障害者、難病患者等の誰もが住み慣れた地域で安心して自立した生活を続けられるよう、保健・医療・福祉等の連携した地域ケアサービスを提供していくためのシステム提案である。
 同年11月には在宅支援サービスセンターとして1館目が上飯田(泉区)に開所された。
 平成6年12月に「ゆめはま2010プラン」(2010(平成22)年を目標年次とする市の総合計画)が策定され、地域ケアプラザ・地域ケアセンターの設置が位置づけられ、翌平成7年1月に在宅支援サービスセンター条例が改訂され、これを受けて平成9年〜11年にかけて全ての地域ケア施設に在宅介護支援センターが設置された。平成10年9月には地域ケア施設条例が制定された。平成12年4月に介護保険制度が実施され、これを受けて日常生活圏域における地域ケアシステム推進基本要綱及び介護保険導入後の日常生活圏域における地域ケアシステムの推進マニュアルが制定された。
 平成14年4月には、月曜日及び祝日の休館を改正し、無休化を実施した。この結果、現在のケアプラザの開館は、休日なしの午前9時〜午後9時となっている。
平成15年4月に、地域ケア施設条例は地域ケアプラザ条例に改正され、同年10月には地方自治法の改正に伴って指定管理者制度が導入されたことから、地域ケアプラザ条例も改正され、社会福祉法人以外も管理運営が可能となった。平成16年度中に地域ケアプラザ業務運営指針を作成する予定である。
 平成16年5月には「横浜市地域福祉計画(全市計画)」が策定され、「誰もが安心して暮らせるまち」を目指している。現在は区計画が策定中で、平成17年度までに全区で策定される予定である。「地域力」を高めることが狙いである。

事例表 3- 1 横浜市地域ケアプラザの概要

平成15年度開所済 97カ所
平成16年度開所予定 3カ所(2カ所は開設済)
最終目標設置数 145カ所
(1中学校区に1施設)
施設の単独・複合の内訳
単独館 39
併設施設 52
(地区センター併設19、障害者施設併設16、特養併設7)
その他 20
※平成16年度までの条例設置分としての箇所数は前倒し分を1つ含むため101となる

2. 効果の検証

 事業途中からアウトソーシングしたのではないため、アウトソーシング以前との比較を定量的に行えるようなデータはないが、ヒアリング結果に基づけば次の効果が指摘できる。

2−1.建設費のコストダウン

 地域ケアプラザは福祉機器の展示・紹介を行う一部の施設(1,200m2程度)を除いて、単館の場合は1〜2階建てで床面積は約1,100m2が標準となっている。図1は実際に見学した中区の簑沢地域ケアプラザ(平成14年12月1日開所)の平面図である。

事例図 3- 1 簑沢地域ケアプラザの平面図(同施設のパンフレットより)
事例図3-1 簑沢地域ケアプラザの平面図

 施設の建設費は、ケアプラザ単独・公設の場合で、1,100m2規模のもので概ね3億円程度である(最近の地域ケアプラザ6ヶ所の平均の施設建設費単価は31万円/m2)。平成15年度から設計に着手する施設では、市有地を無償貸与し、運営者が施設を建設し、一部の公共的なスペースを市が買い取る、という手法も新たに導入した。このため、具体的な額は聞けなかったが、全額市の負担で建設する場合に比べてコストダウンになっていると考えられる。なお、民間による施設建設は平成15年度以降に設計着手する施設について採用され、竣工事例はまだない。

2−2.運営費のコストダウン

 1施設あたりの運営費は年間で3200万円程度となっているが、社会福祉法人への運営委託のため、市職員の人件費の節約になる。1施設あたりの標準的な人員配置は常勤3名(所長を含む・福祉関係の有資格者)と非常勤2名の5名であり、非常勤2名の人件費を常勤1人分と想定すれば、単純計算で4人×100カ所で400人分の市職員人件費相当分が節約できることになる。
 ただし、在宅介護支援センターや地域活動・交流事業については、市からの委託金が支払われているので、その分は行政コストとしてかかっており、また保健・福祉サービスや居宅介護支援については介護保険の枠内で実施されていることから、トータルの行政コストの削減については、こうした要素を考慮する必要がある。

2−3.人員・ノウハウの有効活用

 定性的な効果としては、社会福祉法人の人員の活用や、サービスノウハウの向上といったことが挙げられる。社会福祉法人の事業の場が拡がるため、人員の有効活用が可能となる。見学した簑沢地域ケアプラザの所長さんも、別の場所で経験を積んだ後に所長に就任したとのことである。前述のように1カ所あたりの職員数は少ないが、社会福祉法人での一定の雇用は生み出しているといえる。介護保険の見直し問題など事業採算の問題はあるものの、今後、指定管理者制度の導入などに伴い、雇用の一層の拡大の可能性が見込まれる。
 社会福祉法人にも、高齢者福祉に強いところ、障害者福祉に強いところなど違いがあり、高齢者福祉が事業の中心である社会福祉法人の場合は、障害者福祉の事業ノウハウが十分でないといったことがあるが、「地域支え合い連絡会」の地域交流活動や併設施設(障害者施設併設等)の職員との交流などをつうじて、そうした点を補う仕組みが動いている。

2−4.地域活動の活性化

 地域活動の活性化も効果の一つとして挙げられる。ケアプラザの自主事業としては、子育て支援、障害者支援、高齢者支援をはじめ様々であり、事業に参加した住民がその後もグループをつくって活動しているケースが見られる。簑沢地域ケアプラザの例だが、隣接する公園(根岸森林公園)に遊びに来るのとセットで施設を利用するなど、かなり広範囲から利用者を集めている施設もある。施設利用者の特技を生かした絵画講座や幼児救急法講座や異世代交流や定年後を考えたお父さん支援講座といったユニークなものもある。厨房が2カ所あるという施設の特性を生かして、高齢者に対する配食サービスなども行われている。(事例表 3- 2及び写真参照、写真は簑沢地域ケアプラザに掲示された各種事業案内)

事例表 3- 2 平成15年度の地域ケアプラザでの自主事業の実績例

子育て支援関連 子育てサロン、親子を対象とした交流事業、親子教室、幼児救急法講座、子育てに関する講演会 ケアプラザ内掲示板
障害者・障害児支援関連 障害児の親子交流事業、障害児・者の余暇活動支援、手話教室、視覚障害者支援、接し方講座、機能訓練、中途障害者のリハビリ・交流事業
高齢者支援関連 配食サービス、昼食会、ミニデイサービス、介護教室、健康教室、体操教室
その他 医療相談、フリースペース、異世代交流事業、50歳代対象の健康教室、お父さん支援講座
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