協働によるまちづくりを掲げた公的施設管理の地域・民間委託の動きが高まっているなかで、高度化・多様化する住民ニーズに的確に対処できる専門的人材の配置が大きな課題となっている。とくに公民館では、行政コストの低減だけでなく、生涯学習とまちづくりの拠点としての多様なコーディネート能力を伴うことが不可欠である。そこで福島県会津坂下町では、地域のNPOに専門的人材の確保・配置を委託する工夫をもって、地域住民・NPO・行政の3者協働による地区公民館の地域自主運営を実現している。
 

1. アウトソーシングに至った経緯

1−1.協働によるまちづくりの拠点としての公民館

 会津盆地の西側に位置する人口19,000人の会津坂下町は、平成7年の第3次社会教育推進計画で住民管理の「自治公民館」の考えを提示したことを皮切りに、協働によるまちづくりを柱として平成13年4月にスタートした第4次振興計画に「自主公民館」を位置づけて具体的検討を開始。平成14年12月のまちづくり基本条例制定を経由し、(1)住民による自主的な活動の場(2)みんなが気楽に集う場(3)地域づくりの拠点を掲げて平成16年度から公民館運営を「地域の方々が自らつくる公民館」(自主公民館)に切り替えた。
 この背景には、会津坂下町独自のまちづくりの推進と公民館の位置づけ(振興計画策定自体が公募の住民40名・職員10名の手作りで、5つの柱の1つに「協働のしくみづくり」を挙げ、策定の部会活動からNPO法人NIVO(ニボ)とまちづくりセンターが誕生)に加え、地方分権一括法の施行と軌を一にした公民館の役割変化がある。
 そのことを端的に表しているのは平成15年6月の「公民館の運営に関する基準」の大幅改正で、社会教育に関する事業実施に留まらず、地域の特徴を活かしながら様々な民間団体、地域住民の協力と協働を形成した事業の実施を求めている。さらに、地域住民が自ら学習のメニューの開発や選択、地域性のある話題を取り上げて学習する生涯学習の重要性と、自らが企画・運営する弾力性のある自主公民館の必要性が求められている。
 それだけに、今まで以上に専門性を備えた人材の必要性が不可欠となる。そこで、会津坂下町は、職員主事に代えて地域のNPO(前掲のNPO法人NIVO)の協力を得て生涯学習推進員を配置し、地域住民と共に地域づくりを推進する道を選択した。

活動の様子1 活動の様子2

1−2.運営委員会とNPO派遣の生涯学習推進員による運営の仕組み

 会津坂下町の7つの地区公民館は、おおむね図1の形で運営されているが、ポイントとなるのは運営委員会とNPO派遣の生涯学習推進員である。
公民館事業は自主事業の他、中央公民館との共催で実施する補助事業の組み合わせで実施される。

事例図 2- 1 地区公民館運営の形
事例図2-1 地区公民館運営の形

 運営委員会は元々あった組織だが、中央地区の坂下公民館12名、その他の地区公民館8名だったものを、住民の自主性、主体的な運営を目指す視点から、地域の実情に合った「○○地区公民館運営委員会規約」に基づき、教育や文化に精通した住民やスポーツの得意な住民など幅広い年齢層から老若男女20名程度に増員する形に改革した。選任も、自治会・婦人会・老人会などの団体代表に加え、地区全体を見渡して「やりたい人」「出来る人」「お願いしたい人」などを中心に人選する必要があることから、団体推薦と公募の二本立てとした。「町公民館組織規則」による画一的な委嘱を、地域の実情に合った「○○地区公民館運営委員会規約」による募集、委嘱、任務へ変更したことも住民自治の進展として評価されるが、主要な任務は公民館事業の企画・立案、生涯学習推進員と共同しての事業の実施で任期2年。非常勤特別職として各地区館の館長から委嘱される。なお館長は、運営委員会とは別個の存在として、教育委員会から任命される非常勤特別職である。
 事業の企画・運営を自ら行うため、各運営委員会(委員長)は、町教育委員会(教育長)と「○○公民館・活動委託事業契約書」を締結し、従来教育委員会が管理・支出していたものを運営委員会で管理・支出する形に改革した。平成16年度予算では、月10万円を目安に各館120万円前後が事業費として運営委員会管理となっている。このうちには運営委員の報酬月2,000円も含まれていることから(20名12ヶ月で計480,000円)、活動費は月6万円ほどとなる。なお、施設の保守・管理費は中央公民館で一括管理である。
 さらなる特色は、「地域の実情と特性を取り入れ、地域の方々が自主的に行なう公民館運営を行なうため、生涯学習を通して『地域づくり、人づくり』に熱意ある人材と活動に関わる支援を得るため」(「公民館運営に関する支援業務委託契約書」総則)、地域のNPO法人に専門的人材「生涯学習推進員」の派遣・支援を委託している点にある。
 (1)地域住民とのコミュニケーションとレクリエーションの場を提供、(2)公民館事業運営全般に係る事業の推進、(3)各個別ごとの事業の推進、(4)各事業間の連携・調整、(5)庶務的な業務(文書発送など)、(6)貸館・保守・業務管理、(7)各種団体の相談と支援、(8)地域づくり・人づくりのための活動を内容とする生涯学習推進員の配置・勤務等は表1の通りで、NPO法人NIVOへの委託費は平成16年度予算で年1,750万円で、7名の「生涯学習推進員」の給与と社会保険料が1,665万円と全体の95%を占め、残り85万円のうち自主公民館での地域づくり事業に5万円×7館、事業管理費に50万円(月4万円を目安)が当てられている。

事例表 2- 1生涯学習推進員の配置と勤務

配置計画 (1)社会教育・生涯学習の専門的知識と前向きな姿勢を持ち合わせている信頼のおける人材を配置する。
(2)推進員は、委託契約に基づき支援団体(NPO法人)から中央公民館へ人材の派遣を行い、中央公民館を通して地区公民館に配置する。
勤務内容 今までの職員同様、12ヶ月雇用で勤務形態も常勤とし、さらに、土・日・祝日、夜間勤務も可能にする。
待  遇 (1)社会保険に加入するなど福利厚生などに加入する。
(2)給料は、仕事量に応じ別途定める。
職務管理 地区公民館長及び中央公民館長が行う。

 生涯学習推進員を派遣するNPO法人と並んで各地区の自主公民館を支えているのが中央公民館(教育委員会=行政)で、(1)地区公民館施設の維持・管理(2)NPO法人が派遣する専門的支援人材の受け入れと再配置(地区公民館の事業の企画・運営、事業費等の執行を支援する支援・協力する職員の配置)(3)共催事業(補助事業)の実施(4)町教育委員会はじめ国・県等からの情報の提供と発信(5)公民館相互の連絡調整(6)公民館活動に関する研修と人材育成F町事業に関わる連絡調整などを任務としている。
 丸投げではなく、行政としての役割を明確に位置づけ、地域住民、NPOと三者協働を成り立たせたところに、会津坂下町の公民館アウトソーシングの姿勢と見通しが見られる。

1−3.NPO法人NIVO

 人材の派遣・支援を受け持ったNPO法人NIVOは、会津坂下町第4次振興計画策定に携わった「まちづくり2001委員会しくみづくり部会」の活動の中から「まちづくりには民間公益活動団体のまちづくり活動へのかかわりが必要との認識のもと、公益活動団体の活性化やネットワークの構築を図り、当町における協働のしくみの構築を目的として振興計画策定後も活動を展開してき」(設立趣意書より)た経過を踏まえ、まちづくり委員会から独立した組織として平成15年5月に設立された。NIVOとはNonprofit Independent Voluntary Organizationの頭文字で、非営利と自発性・独立性が強調されている。
 「会津坂下町における民間公益活動の伸展を目指し、地域における民間支援組織として公益活動を支援することにより、創造的で個性溢れる豊かな地域社会の形成に貢献することを目的」(同法人定款第3条)に、会津坂下町まちづくりセンターの運営をはじめとする公益活動団体の運営・連絡・助言・援助を事業としている。提供いただいた平成16年度事業予算によれば、全事業費2,150万円のうち、まちづくりセンターの運営委託等が350万円、自主公民館運営委託等が1,750万円となっており、自主公民館運営委託のウエイトは大きい。逆にNIVOがなければ、会津坂下町型の公民館地域自主管理は実現できなかったと言えよう。(写真はNIVOの星理事長=右と渡部副理事長=左
NIVOの星理事長(右)と渡部副理事長(左)
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