札幌市コールセンター「ちょっとおしえてコール」は、日本初の市政総合案内コールセンターである。実績のある民間企業へのアウトソーシングによって、わずか1年でシステム稼働に至り、また約6割のコスト削減効果が見込まれる。問い合せた市民は、民間企業が蓄積する迅速かつ丁寧な電話対応などを高く評価しており、縦割り行政の象徴であった「たらい回し」を克服している。また、本事例のコールセンターは、市民からの問い合わせ対応のみならずNPMを展開する基本ツールの役割を担う可能性も生じており、進展の鈍い案内・受付及び電話交換業務におけるアウトソーシングの先進的事例と位置づけられる。
 

1. アウトソーシングに至った経緯

1−1.アウトソーシングに至った背景

 札幌市コールセンター「ちょっとおしえてコール」(以下、「コールセンター」と称す)は、ITを活用した本格的な自治体CRMを目指した札幌市IT経営戦略のもと、アウトソーシングによって実現された日本初の市政総合案内コールセンターである。
 コールセンター業務のアウトソーシングは、市職員を増員することなく、顧客である市民が身近に市政と接する点から改革し、市民に対して顧客志向の市政総合案内サービスを提供するためには、民間企業の有する高度なシステム開発能力やテレマーケティングノウハウが必要であったことから実施された。
 コールセンター設置は、札幌市IT経営戦略の最重要課題として位置づけられ、平成14年4月に福迫尚一郎副市長の直轄CRMプロジェクトチームを発足させ、12月に市民モニター実証実験、平成15年1月から3月にかけて市内3区を対象にサービスを開始、平成15年4月にサービス対象を市内全域に拡大させるといった、実績のある民間コールセンター企業へのアウトソーシングによって、わずか1年間でシステム稼働に至った。

コールセンタ運用風景

1−2.コールセンターの概要

 コールセンターの概要をまとめたものが、事例表 1- 1である。アウトソーシング先の民間コールセンター企業のオペレータ5名が、市民から札幌市の制度、手続き、イベントや生活情報等の問い合わせを電話・ファックス・電子メールで受けて回答するシステムである。回答にあたっては、回答用データベース(平成16年10月現在約1,500件の「FAQ(Frequently Asked Questions、よくある質問と回答)」が登録済)が構築され、質問内容に応じた回答を参照している。回答用データベースは、これまで札幌市の行政運営の中心を担い、退職を間近に迎えた団塊世代の職員に有するノウハウを蓄積・継承するなど市職員間のナレッジマネジメントを図ることにも活用されている。

事例表 1- 1 コールセンター概要
事業目的 (1)市民サービス向上
(2)市民ニーズの把握・活用
(3)情報格差対策
(4)職員によるノウハウの共有 
事業内容
  • 札幌市の制度、手続き、イベント、施設の案内や問い合わせに対応・回答
  • 問い合わせ対応方法は電話、ファックス、電子メール及びホームページ等による
  • 年休無休、午前8時から午後9時までの受付対応 加えて、平成16年度から以下の2つのサービスを提供
    • 公共交通電話案内サービス(地下鉄・市電等公共交通機関に関する案内業務)
    • コミュニティ施設予約サービス(札幌市内3区民センターの貸室予約受付業務) 
アウトソー
シング形態
  • 札幌市内に施設を有する民間コールセンター企業に業務委託
  • オペレータ5席(うち1席英語対応可能)、オペレータの統括、電子メール・ファックス対応などを行うスーパーバイザーが1名、リーダー2名の体制
  • 受託民間コールセンター企業が有する施設内の専用ブース・電話交換機などの設備を使用 
市民一人当たり
コスト
(平成14年度)
市民一人当たりコスト 58.2 (円/人)
市民一人当たり一般会計歳出額(450,484円)に対する割合 0.01 (%)
市民一人当たり市税額(144,052円)に対する割合 0.04 (%)
事業担当課 企画調整局情報化推進部プロジェクト担当課 

1−3.アウトソーシングコスト

 アウトソーシング初年度の特徴は、システム導入コスト総額の45.1%をコンサルティング委託費にかけて戦略を構築する一方で、システム開発委託費は2千万円以下に抑えている点である。次年度からは、Webページ作成やIP内線電話網を敷設することで市役所内に設置されていないコールセンターからスムーズに札幌市各部局内線電話に接続を可能にするといった、市民サービスの拡充のために新たなコストが発生している(事例表 1- 2)。


事例表 1- 2 アウトソーシングによるコールセンターコスト

単位:千円

システム導入コスト システム保守コスト 
  平成15年度 平成16年度
(予算) 
平成14年度 金額 比率 平成15年度
16年度(予算)
金額 比率 金額 比率
コンサルティング委託費 28,329 45.1 オペレーティング委託費 61,698 83.2 79,979 83.8
システム開発委託費 19,898 31.7 アプリケーション保守委託費 3,980 5.4 5,068 5.3
オペレーティング委託費 1,953 3.1 システム保守委託費 4,043 5.4 4,080 4.3
ハードウェア調達費 4,343 6.9 PR業務委託費 2,661 3.6 3,938 4.1
ネットワーク回線使用料 4,343 6.9 回線使用料 303 0.4 606 0.6
システム運用費等 2,310 3.7 事務費 1,107 1.5 1,051 1.1
ソフト等購入費 674 1.1 Webページ作成委託費 399 0.5 - -
事務費 1,000 1.6 ファイアウォール保守 - - 221 0.2
62,850 100.0 VoIPネットワーク保守 - - 504 0.5
  74,191 100.0 95,447 100.0

2. 効果検証

2−1.アウトソーシングによるコスト削減効果

 1件(対応時間10分間)あたりのコストを市職員対応とコールセンター対応とで比較すると、市職員では919.6円を要するが、コールセンターではアウトソーシング先の民間コールセンター企業が有する電話対応スタッフ、電話回線、交換機、ブース設備等を用いるため331円に削減できる(事例図 1- 1)。このように、アウトソーシングによるコスト削減効果は約64%と非常に大きいものである。

事例図 1- 1 アウトソーシングによる1件あたりコスト削減効果
事例図1-1 アウトソーシングによる1件あたりコスト削減効果

2−2.コールセンターの活用状況

 次に、コールセンターの活用状況を1日あたり平均入電件数(月別)でみると、着実に増加している(事例図 1- 2)。これまでの傾向から、年間事業費と採算が合うのに必要な1日あたり平均入電件数には平成18年6月に達すると試算され、事業開始からわずか約3年という短期間で採算可能な活用水準となる見込みである。

事例図 1- 2 コールセンター1日あたり平均入電件数の変化
事例図1-2 コールセンター1日あたり平均入電件数の変化

 この着実なコールセンターの利用定着の要因には、アウトソーシング実施過程において、無作為抽出による市民1万人を対象にアンケート調査を実施し、市政情報を得るための媒体として回答者の約7割が電話を望んでいるといった市民ニーズを正確に把握していたことがあげられる。実際に、コールセンターへの問い合わせは、電話・ファックス・電子メールで可能であるが、問い合わせの96.5%が電話である。

2−3.サービス対象及び内容の拡充

 また、「札幌市コールセンター事務取扱要綱」(平成14年)において、サービス対象を「市民,企業,その他の団体及び観光客」とし、当初から想定していた観光客へのサービスを段階的に充実させている。具体的には、平成15年度に英語による問い合わせ対応専用席を増設して、国際イベントなどにあわせて来道する外国人や札幌市在住外国人に英語での情報提供を可能にし、国際ホスピタリティを向上させている。
 さらに、サービス対象のみならず、サービス内容も拡充している。平成16年度には公共交通機関に関する案内業務やコミュニティ施設予約サービスを開始するなどサービス内容を増やしている。そして、都市機能を麻痺させた台風など災害時に多くの問い合わせを受けており、都市インフラとして大きな効果をあげている。

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