現在、全国の都市部では行政事務のアウトソーシングが進んでいるのに対し、中山間地域においては、民間へ委託することに対する不安が根強く、必ずしもアウトソーシングが進んでいるとは言えない状況にある。その中において庄原市は、市の全額出資による「庄原市総合サービス株式会社」を設立することによって、住民の民間委託に対する不安を解消した事例である。
 

1. アウトソーシングに至った経緯 

 アウトソーシングへの動きは、平成14年2月策定の「第3次庄原市行政改革大綱」の中に、平成15年度からの給食調理部門や公的施設の管理運営(体育館・田園文化センター)の民間委託推進が盛り込まれたことに始まる。 
 しかし、給食調理部門の関係者(保護者、PTA等)を対象に開催された地区説明会では、「業務を完全に民間委託してしまうと民間のことだから営利に走って、食材を安いものにしたり、衛生面や危機管理の面で行政並みの水準で行ってくれるのか不安がある」「学校給食は教育の一環として行政が責任を持つべきなのに、民間に丸投げするのは疑問」などといった否定的意見が多く出された。また、委託先についても、実績のある大手民間事業者に声をかけたものの引受け手がなく、結局、民間委託の話は計画段階で頓挫してしまった。

事例図 8- 1 庄原市総合サービス株式会社
駅前の空き店舗であったガソリンスタンド(市の所有)を活用。

 そうした中、転機となったのが、平成14年12月の市長選挙で初当選した滝口季彦氏の登場である。滝口市長はその公約で、民間活力の最大限の活用を訴えており、就任早々、行政の業務に民間の経営手法(成果主義・顧客志向・効率性の追求・競争原理)を導入することによって公共部門を効率化し、従来の行政ではなしえなかった住民サービスの向上を図ろうとした。
 そこで、アウトソーシングに対する根強い不安や引受け事業者がいない状況を勘案して市長が考え出したのが、市が全額出資(出資額1,000万円)する「庄原総合サービス株式会社」(以下:庄原株式会社)の設立である。(平成16年1月設立、平成16年4月業務開始。)

事例図 8- 2 三日市保育所

 市が全額出資することで、委託業務に対する住民の不安が解消されたほか、市内へのUターン希望者などの求職ニーズにも合致し、一時頓挫していた小学校の給食調理業務や、指定管理者制度を活用した三日市保育所の管理運営業務を委託することが決まった。
 現在のところ、庄原株式会社の業務としては上記受託分のみであり、事務員2名を含む31名の社員がその業務にあたっている。
 また、会社の役員は、市長を含め行政から6名、民間から3名の計9名で構成され、代表取締役の神谷芳則氏以外は非常勤となっている。
 神谷氏は、民間出身者であり、これまでの民間での経験を活かし様々な面で経営手腕を発揮している。特に、給食調理業務においてはコスト意識の徹底、また三日市保育所においては、延長保育・低年齢児保育(1、2歳児)等の時間の拡充や以前より地元住民から要望の強かった看護師や男性保育士の配置を実現するなど、民間ならではの魅力的な取り組みを行っている。

2. 効果検証

 平成16年4月からの業務開始であるため、年間を通しての効果については検出できないが、現時点で確認できる範囲において、学校給食調理業務と三日市保育所管理運営業務それぞれについてコスト面・業務面での効果検証を行う。

2−1.学校給食調理業務について

 庄原市では、自校方式による小学校が2校、共同調理場が4ヶ所あり、1日約1,300食の給食が調理されている。庄原株式会社に委託しているのは、このうちの4共同調理場分、約600食/日である。なお従来の調理員については、全員配置転換により対処している。

〈 コスト面 〉
 委託前後での経費を比較してみると、経常経費の中で節減幅が大きいのはやはり人件費である。職員を総て新規採用としたことで、委託前より1人多い12人を雇用しているにもかかわらず、市の負担は概算で約1,000万円削減できる見込みである。(事例表 8- 1参照)
 またこの削減分は、図書・教材などの教育関連経費に充当し、教育環境の整備に努める予定である。

〈 業務面 〉
 食材・栄養面での住民の関心が高いため、食材の購入や献立は市側で行い、庄原株式会社は給食調理業務を請負っている。そのため実際の業務では、民間としての自由度を十分には発揮できていないが、会社としては保護者等の関係者に不安を与えないよう、衛生管理に細心の注意を払いながら、徹底したコスト意識をもって業務に取り組んでいる。
 職員配置としては、各調理場に主任調理員1名を現場責任者として配置(事例表 8- 1参照)し、責任体制を明確にしている。また月に数回、各調理場の主任調理員が自主的に集まって、市の担当者との打合せを積極的に行うなど、職員全員が正社員であることから現場の士気も高まっている。

事例表 8- 1 4共同調理場の従業員数変化
委託前 委託後
市職員調理員 8人 正社員主任調理員 4人
臨時職員 1人 正社員調理員 8人
調理パートタイマー 2人    
合計人数 11人 合計人数 12人
15年度事業予算 61,066 千円 16年度事業予算 50,025千円

2−2.三日市保育所の管理運営業務について

 三日市保育所は市街地に位置し、保護者の利便性も高いことから、以前より延長保育時間の拡大や低年齢児保育の拡充、など多くの要望が寄せられていた。しかし、市税の減収や交付税の減額、国・県の負担金補助金の削減等、財政面での問題や勤務時間の問題から市では対応することが困難であった。このため、経費を抑えながら延長保育などのサービス向上が期待できる庄原株式会社へ指定管理者制度を適用して委託を行った。

〈 コスト面 〉
 三日市保育所の事業予算は、平成15年度の72,533千円に対し、平成16年度は73,724千円である(事例表 8- 2)。対前年比では、約120万円の増加となっているが、委託前後の従業員数を比較してみると、13人から17人へと4名の増員となっている。全員が新規採用という点は考慮すべきではあるが、次の業務面でのサービス向上を勘案すれば、むしろ15年度並の予算規模で保育士の増員や延長保育の拡大、看護師の配置など保護者からの要望を充足できた点は評価すべきである。

〈 業務面 〉
(1)保育士の増員
 事例表 8- 2のように民間委託前後で保育士を10名から13名へと3名増員できたことで、勤務ローテーション(事例表 8- 4)にも余裕ができ、日曜日を除く朝7時30分から夜19時30分までの延長保育時間の拡大(事例表 8- 3)や低年齢児保育の拡充など、充実した保育が可能となった。

事例表 8- 2 三日市保育所の従業員数変化
委託前 委託後
正市職員保育所長 1人 正社員保育所長 1人
正市職員保育士 7人 正社員保育士 10人
臨時保育士 2人 契約保育士・保育士パート 2人
    正社員看護師兼事務員 1人
正市職員調理員 1人 正社員調理員 2人
臨時・パートタイマー調理員 2人 調理パートタイマー 1人
合計人数 13人 合計人数 17人
15年度事業予算 72,533千円 16年度事業予算 73,724千円
事例表 8- 3 延長保育時間の変化
サービス内容 委託前 委託後  
平日延長保育時間の拡大 7:45〜18:00 7:30〜19:30 1時間45分拡大
土曜日延長保育時間の拡大 7:45〜12:45 7:30〜19:30 7時間00分拡大
事例表 8- 4 ローテーション表
7:15〜16:15 9:00〜18:00
8:00〜17:00 10:45〜19:45
事例図 8- 3 看護師兼事務員の配置(右側)



(2)看護師の配置
 従来から、保育所への看護師の配置は、保護者からの要望が強かったものである。市では、財政上の問題から、看護師を新規に雇用して保育所に配置することは困難であったが、今回、庄原株式会社に保育所の運営を委託することで、民間ならではの柔軟な対応ができ、解決できた課題である。(事例表 8- 2、写真右図)。
 看護師を配置したことで、万が一、子供が怪我や病気になった時にも即座に対応できるということから、実際には、保護者だけでなく保育士の側からも安心して仕事ができる職場環境が整えられたと好評である。なお、看護師は、看護師としての業務だけでなく、保育所のHP管理などの一般事務も兼務している。

(3)小学校との連携
 市の保育方針に基づく保育だけでなく、保育所から小学校への連続性を考慮し、近隣の庄原市立東小学校との交流を図っている。(七夕会などの行事へ参加。)
 保育所所長に教員OB(元小学校校長)を配置したことで、独自のネットワークを活かした小学校と保育所の合同研修会を実施することができ、小学校入学前(6歳児前後)の育児のあり方等、お互いに参考となる情報を共有することが可能となった。

2−3.その他の効果

 庄原株式会社の設立は、直接的には以上のような効果がみられたが、副次的効果としては、Uターン希望者に正規職員としての雇用の場を提供できたことがある。実際、社員募集にあたっては、市内外から175名もの応募があり、その中から会社の事務員2名を含む31名が新規雇用された。

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