桑名市はPFI法に基づき「桑名市図書館等複合公共施設特定事業」(平成13年6月:実施方針の公表、平成14年4月:落札者決定)を実施しており、平成16年10月に桑名市立中央図書館を含む複合公共施設「くわなメディアライヴ」が開業している。施設構成は1階が多目的ホール、プレイルーム(託児室)、生活利便サービス施設(カフェ)、2階が保健センターと勤労青少年ホーム、3・4階が図書館となっており、本施設の維持管理業務だけでなく、従来市が実施してきた図書館運営業務部分を民間事業者に委託するという運営重視型のPFI事業となっている点に大きな特徴がみられる。
 

2. 効果検証

2−1.コスト削減効果

 特定事業選定時点では、市が自ら本事業を実施する場合と比較してPFI方式により実施する場合の財政負担削減率を約5.5〜12.5%見込んでいたが、総合評価一般競争入札の結果、実際には現在価値換算後の金額で約22.0%と大きな削減効果が得られた(事例表 5- 1参照)。

事例表 5- 1 財政負担額の比較
金額(現在価値換算)
市が直接実施する場合 9,774百万円
PFI方式で実施する場合 7,622百万円
市の財政負担軽減額 2,152百万円
市の財政負担軽減率 約22.0%

 PFIを導入した理由は、「財政負担の削減」「財政負担の平準化」にあった。本事業はBOT方式(民間事業者が施設の所有権を保有)が採用され、事業費の中に施設の修繕費用や備品・什器等の更新費用が含まれており、一定水準で図書等を購入できる点や人材を確保できる点が大きなメリットとして受け止められた。

2−2.民間ノウハウ導入によるサービス水準の向上

 市立中央図書館は公の施設であり、運営業務は市と民間事業者との連携・協働により実施されているが、案内や登録、貸出・返却業務、リクエスト・予約業務、レファレンス業務など、図書館利用者に対してサービスを提供する業務は、SPCの構成企業である図書館流通センター(以下TRC)が担当している。

 業務要求水準では夜間開館(新図書館の開館時間は9時〜21時、旧図書館は9時〜17時)、開館日数は300日間以上が求められていることから、TRCでは時間帯や曜日などを考慮したローテーションを組み、民間ならではの柔軟かつ効率的な人員配置で利用者に応対している。
入館者数はオープン効果の影響が大きく、開業から44日間(平成16年10月1日〜11月20日現在)で12万4千人以上にのぼっており、1日あたりの平均入館者数は昨年度の887人から3,914人と大幅に増加、1日あたりの貸出冊数も3倍以上に増加している。また、今まで土日にしか利用できなかったサラリーマンなどの潜在的なサービス需要に対応することが可能となったことから、19時以降の利用率が全体の10%以上を占めるという状況になっている。
 想定以上の入館者数がある中で、特に問題なく業務が遂行されている理由としては、実際に図書館の運営業務に携わるTRCの意見が施設の設計段階から反映されていたことが大きく影響している。特に、要求水準以上の設備として提案のあった自動化書庫システムが導入されたことにより、閉架書庫からの迅速な出庫が可能となり、利用者の待ち時間削減というサービスの向上につながっている。
 また、ICタグを導入したことにより、バーコードのように1冊ずつ読み取らなくでも複数冊同時に処理することが可能となり、貸出・返却業務が大幅に効率化されている。さらに、プライバシーへの配慮から自動貸出機も設置されており、利用者自身が簡単な操作で借りることも可能になっている。

2−3.市の役割

 図書館運営業務のすべてを民間事業者の業務範囲としたわけではなく、市の職員も館長を含む6名(正職員3名、嘱託3名)が従事している。市は運営・サービス方針の決定や図書等の選定・除籍方針の決定などの重要な役割を担っており、民間事業者はその方針に基づいたサービス計画や図書等の購入計画などの企画立案を行うことになっている。
 図書館運営業務をPFI事業 の業務範囲に含めたことで得られた効果としては、今まで日常業務に追われて見えなかった部分が見えるようになり、より良い図書館づくりに向けた企画立案や市が本来すべき事業を実践することが可能となったことが挙げられる。その一例が子どもたちへの「読み聞かせ会」の開催であり、市の業務として、ボランティアを募集して実施されている。今後は、市内の学校と連携した調べ学習の推進や三重大学との連携によるサテライトカレッジの充実などが計画されている。

3. 住民の反応

 PFI導入過程において、市民から図書館運営業務の民間委託に対する懸念はほとんど聞かれなかったが、PFIには専門用語が多く使用されるため、市議会に対しては政策課から十分な説明が行われた。
 開業後の市民の反応としては、施設や設備の新しさだけでなく、図書館サービスについても「親切」「丁寧」といった声が寄せられている。図書館の整備・充実は従来から市民ニーズが高く、サービス内容が良くなるのであれば、市民(利用者)にとってその実施主体が公共であるか、民間事業者であるかはあまり関係がないというのが実態となっている。
 利用者の満足度を把握する方法として、TRCでは日常のフロアワークに加えて、「ご意見承りボックス」を設置している。今後は、入館者数と一人あたりの貸出数を追跡し、同規模の他の図書館と比較するなどして不足点を推測したり、利用者アンケートの実施や「友の会」を組織したりするなどの対応策が検討されている。

4. アウトソーシング(PFI導入)の問題点と改善方法

4−1.民間事業者とのコミュニケーション

 市は民間事業者と共通認識をもって事業を遂行するため、相互の意思疎通を重視している。図書館では、開業後定期的にコミュニケーションする場が1週間に1度開催されており、週の間に発生した解決すべき事項や翌週の活動・行事等の報告や協議が行われている。

4−2.民間事業者に対するインセンティブの付与

 PFIは単なる外注ではないという認識から、本事業においては民間事業者を惹きつける事業スキームの構築やモチベーションを保つための仕組みが必要という判断がなされた。
 基本的にはサービス購入型のPFI事業であるが、生活利便サービス施設部分については民間事業者が独立採算の収益施設として活用できるようになっている。
 民間事業者に対するインセンティブとしては、図書館の年間利用者数の増減によってサービス対価が改定される仕組みが取り入れられている。8段階の範囲が設定され、実際の利用者数が属する段階の計算基礎利用者数に利用者1人あたりの単価を乗じてサービス対価が計算される。つまり、利用者が多くなれば、その分サービス対価が増加して支払われることになる。利用者数が増加すればマンパワーも増強する必要があり、利用者数の増減に応じてサービス対価が改定されるという仕組みは、民間事業者のモチベーションを保ち、さらなる創意工夫や経営努力を促す意味でも有効に機能すると考えられる。
 また、現在は最新のAV機器やAVサービスが導入されているが、将来的な陳腐化リスクや技術革新に伴う高スペック化に対応していくため、市が支払うサービス対価のうちシステム整備保守管理費については、市と民間事業者の協議により、5年毎に入札価格の1.5倍を限度として見直しが行われることになっている。

4−3.民間事業者や金融機関との契約交渉における課題

 本事業では総合評価一般競争入札が採用され、契約書(案)が事前に公表されていることから、弁護士同席のもとで行われた民間事業者との契約交渉は特に難航することなく進められた。総合評価一般競争入札は契約交渉がスムースに進むというメリットがあるが、柔軟性がなく、民間事業者の提案事項を盛り込むことが難しいというデメリットもある。そのため事業内容によっては、公募型プロポーザル方式の採用も検討する必要があると考えられる。
 SPCは金融機関からプロジェクトファイナンスで資金調達しており、市は金融機関と直接協定を締結している。PFIやアウトソーシングする際の問題点として、委託する民間事業者が経営破綻した場合の対応が課題として挙げられるが、SPCに不測の事態が発生した場合、金融機関は市にその旨を通知することが規定されており、市と金融機関とが早期に協議を開始することで公共サービスの継続性を担保する仕組みになっている。

5. 今後の展望

5−1.モニタリングの実施

 PFI事業における最も重要な公共の役割として、モニタリングが挙げられる。市が実施するモニタリングには日常モニタリング、定期モニタリング、随時モニタリングの3種類があり、民間事業者が提供する維持管理・運営業務について、定められた性能や要求水準を達成しているか否かの確認作業が行われている。
 モニタリングの結果、要求水準が維持されていないことが判明した場合、市はサービス対価の減額を行うこととなっている。
 今後はモニタリング機能を通じて、より良い図書館サービスが提供されることが期待されている。

5−2.民間委託やPFIに対する今後の方向性

桑名市では従来からスクラップ・アンド・ビルドの考え方を取り入れており、民間委託やPFIの導入について検討する事例は今後増えるものと予想される。
 新たな行政改革大綱として平成16年度を初年度とする「行革プラン(リフォームくわな)」が策定されており、具体的方策の一つとして「行財政の健全化」が掲げられている。この中には「民間活力の活用」が位置付けられており、公共施設の管理運営への指定管理者制度の導入、保育所・小学校給食調理業務、ゴミ収集業務等の民間委託等が検討されることになっている。

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